2018年12月28日金曜日

2018年ベストコミック20選

《過去のベスト》
2014年
2016年
2017年


「2018年ベストコミック20選」



▼マージョリー・リュウ[作]/サナ・タケダ[画]/椎名ゆかり[訳]『モンストレス』
▼水上悟志 『水上悟志短編集「放浪世界」』
▼徳弘正也『もっこり半兵衛』
▼篠原健太『彼方のアストラ』(全5巻)
▼高橋寛行『キャプテンハンゾーモン』(全2巻)
▼榎本俊二『アンダー3』
▼崇山崇『恐怖の口が目女』
▼原田重光[原作]/初嘉屋一生[漫画]/清水茜[監修]『はたらく細胞BLACK』
▼オガツカヅオ『魔法はつづく』
▼黄島点心『黄色い円盤』
▼友美イチロウ『號鉄のジョニー』
▼阿部洋一『それはただの先輩のチンコ』
▼BLZ『カリオストロの魔女』
▼丸岡九蔵『陋巷酒家』
▼斎藤潤一郎『死都調布』
▼施川ユウキ『銀河の死なない子供たちへ』(上下)
▼福島鉄平『ボクらは魔法少年』
▼窓『カニバリズム!』
▼成田芋虫『IT'S MY LIFE』(全11巻)
▼カルロ・ゼン[原作]/石田点[漫画]『テロール教授の怪しい授業』


モンストレス vol.1: AWAKENING (G-NOVELS)
マージョリー リュウ サナ・タケダ
G‐NOVELS
売り上げランキング: 57,334



水上悟志短編集「放浪世界」 (BLADE COMICS)
水上 悟志
マッグガーデン (2018-01-10)
売り上げランキング: 9,490


 マージョリー・リュウ&サナ・タケダ『モンストレス』は、美麗にしてグロテスク、そして緻密なグラフィックで亜人種と魔女の抗争を軸に多種族が入り乱れる世界を描き出し、最初から容赦なくハードモードで展開されるヘヴィなハイブリッド異世界ファンタジー。自らの内に魔神を宿すマイカ・ハーフウルフに安寧は訪れるのか。モブ顔双子姉妹、頭の上の宇宙人、中年ファンタジー、バケモノ喰い稼業などバラエティに富む、水上悟志 『水上悟志短編集「放浪世界」』。収録作の中でも、クローン、珪素生命体、AIの三つ巴の関係を移民船型巨大団地ロボを舞台に描く中編「虚無をゆく」は渾身の傑作。水上氏が原作・ネームを描き下ろし、今年の1クールロボット群像劇アニメの見事な傑作だった「プラネット・ウィズ」とも共鳴するものがあります。



もっこり半兵衛 1 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)
集英社 (2018-01-19)
売り上げランキング: 10,791


彼方のアストラ 全巻合本版 (ジャンプコミックスDIGITAL)
集英社 (2018-12-11)
売り上げランキング: 10,408


キャプテンハンゾーモン (2) (ヒーローズコミックス)
高橋 寛行
ヒーローズ (2018-04-05)
売り上げランキング: 50,468


 徳弘正也『もっこり半兵衛』は抜群のチンポ、もといテンポの良さ。元・無双の人斬りで、今は夜回り稼業をしながら日々袴に夢精しまくる主人公といい、スキあらば滑り込むギャグといい、かなり稀有な読み味なのにしっかり人情ものに着地する。徳弘氏の長年の持ち味が最良のかたちで滲み出ております。篠原健太『彼方のアストラ』はあまりにも鮮やかな完結でした。5巻というヴォリュームでこれだけの謎と伏線と冒険を盛りこみ、鮮やかな大団円として畳んだお点前。新機軸に挑戦した篠原氏は、同時に金字塔を打ち立ててしまった。とにかく事前情報すら一切入れずに全巻一気読みを薦めます。高橋寛行『キャプテンハンゾーモン』。昨年は第1巻をベストに挙げたのですが、完結を迎えた第2巻も文句なしのベストです。変身回数が残すところ数回しかない、最初からクライマックス状態の老齢のスーパーヒーローが、内外の危機にどう立ち向かうのか。高密度の画力をぶつけ、必殺の大技ともども真っ向から描き切っています。お約束、王道の力強さ。キャプテンハンゾーモンはガチ。ガチなんだ。



アンダー3(1) (アフタヌーンコミックス)
講談社 (2018-06-22)
売り上げランキング: 36,021


恐怖の口が目女 (LEED Café comics)
崇山祟
リイド社
売り上げランキング: 122,737


 榎本俊二『アンダー3』は、数年分の性欲(連載)がついに単行本として精……電子化。電子化オンリー作品なれど、コンドームの精液だまりが肛門から出てくる揺るぎない性教育マンガが読めるのは榎本先生だけだぞ! ジャスティスジャスティス。出たとこ勝負のグルーヴ感の一年十ヶ月分の集積と爆発がみられるのが、崇山崇『恐怖の口が目女』。しょっぱなの異様な「すずめ新聞」からフルカラーのラスト数ページまで一気読みすると、気分が宇宙までブチアガることうけあい。巻末の崇山氏と天久聖一氏との対談も面白く。2chのスレに約3年間、誰に求められるわけでもなくひたすらポプリが香るようなポエムを投稿し続けたというくだりは、これはもう修験道ではないかと感銘を受けました。



はたらく細胞BLACK(1) (モーニング KC)
初嘉屋 一生
講談社 (2018-07-09)
売り上げランキング: 5,840


魔法はつづく (LEED Cafe comics)
オガツ カヅオ
リイド社
売り上げランキング: 64,074


『はたらく細胞』スピンオフコミックの一つながら本家より容赦がない『はたらく細胞BLACK』(原作:原田重光/漫画:初嘉屋一生/監修:清水茜)。こっちもぜひアニメ化してほしいと思うんですけど……無理ですかね。原作は『ユリア100式』『ゆりキャン』などで知られる原田氏ですが、エロコメディを期待すると内臓に一撃を喰らいます。第3話の勃起不全回からの第4話の淋菌回の苛烈な流れは冷汗がドバーッと出る。ところで、月刊ヤングマガジンで連載中の原田氏原作の『女神のスプリンター』は射精管理トレーニング漫画なので、先に挙げたエピソードを読んでいると味わい深いものがあるのではないかと思います。オガツカヅオ『魔法はつづく』は、待望の短編集。雑誌(シンカン Vol.1/2009年)→WEB(エクストリームマンガ学園/2016年)→雑誌(ネムキプラス/2017年)という珍しい掲載(再録)歴を経てついに単行本に収録された「よふさぎさま」は、純粋さという怖さを描く傑作。登場人物と読み手にとっての「ひっかけ」になるポイントが交わったり交わらなかったりするのも絶妙です。三角関係の顛末、からの……というゴースト(生霊)ストーリー「しあわせになりましょう」。奇妙なラブコメ関係を描き、ラストのセリフが実にエモい「こくりまくり」は、じわりとくる“してやられた感”が味わえる――などなど、ぐるりと転回する瞬間の〈魔法〉にゾワッと戦慄、あるいはじわりと染み入る9編+α。



黄色い円盤 (LEED Cafe comics)
黄島 点心
リイド社
売り上げランキング: 118,948


號鉄のジョニー 1 (SPコミックス リイドカフェコミックス)
友美イチロウ
リイド社 (2018-07-05)
売り上げランキング: 235,734


それはただの先輩のチンコ
阿部 洋一
太田出版
売り上げランキング: 21,233


 黄島点心『黄色い円盤』は奇想短編集第二弾。やはり黄島氏の奇想とストーリーテリングのうまさに舌を巻いてしまう、そしてちぎれてしまう。「円盤」はトンデモな傑作で、双子の宇宙論とDJの二枚使いをダブらせ、A面B面と北半球南半球と物質反物質がごっちゃになるという超極大スケールのブッこみが炸裂、破滅的なカタルシスを爆笑とともに味わわせてくれる。友美イチロウ『號鉄のジョニー』は戦後闇市系アーティフィシャル・ヴァイオレンス。股間がチェーンソーで真っ二つになった瞬間、傑作だと確信しました。しかも2回! 蛇原は1話で死ぬには惜しいくらいのいいキャラだなあ。おちんちんが真っ二つになる傑作漫画といえば、山本英夫『殺し屋1』(タテに真っ二つになる)ですが、阿部洋一『それはただの先輩のチンコ』はヨコに真っ二つになる傑作おちんちん漫画です。だが本作はグロではない。ポップで、切ないのだ……。ところで、ボーイフレンドの切り離されたちんこに寄生される、というのもTSにカテゴライズしていいんでしょうか。













「カリオストロの魔女(書籍版)」(Booth)
https://blz.booth.pm/items/908900

 今年4月から9月にかけて放送されたアニメ最新シリーズ「ルパン三世 PART5」は集大成的で感慨深い内容でしたが、2014年10月末から2018年6月末にかけて発表され、8月に300ページの漆黒の造本でまとめられた、BLZによる「カリオストロの城」二次創作アフターストーリー『カリオストロの魔女』にも大いにシビれさせられました。35年の間にルパン三世とクラリスが歩んだそれぞれの道が再び交わり、カリオストロ公国の戦いの歴史にひとつの節目が刻まれるストーリーを、これでもかとキメと見開き構図のオンパレード&イカしたセリフ回しがシブく染めあげる。













「陋巷酒家 うらまちさかば」(Booth)
https://booth.pm/ja/items/966489

 コミティア125で初頒布された、丸岡九蔵『陋巷酒家(うらまちさかば)』は、現在2巻まで刊行されている、近未来終末バイオメカニカル人情立ち飲み屋連作コミック。まさに看板メニューの煮込みのように、世界観もキャラクターもじっくりと丁寧につくりあげられており、細かな描きこみも含めて楽しい。ポストアポカリプスな日常が活き活きと描き出されています。現在1巻は在庫切れ中であり、重版・通販再開は1月末~2月予定とのこと。



死都調布 (torch comics)
死都調布 (torch comics)
posted with amazlet at 18.12.28
斎藤 潤一郎
リイド社
売り上げランキング: 23,092





 斎藤潤一郎『死都調布』は、今年の夏のサグい真打ち。ストーリーは女陰を晒す女で動き出し、女陰を晒す女で締めくくられる。全貌が見えてきたかと思いきや、依然として迷宮の中にいるような異物感にガツンとやられてしまった。「ケツはちゃんと拭け」から始まる男と女の、そしてビーフタコスを介した父と子の、どこまでも擦り切れ切って乾き切ったやりとりを描く「CHAPTER.8 ILLSTREET」は一つの短篇としても完成されていて、決定的に素晴らしい。施川ユウキ『銀河の死なない子供たちへ』は、不死の存在である子供たち(と、その母親)の長い長い歴史の中の日常、変わる者と変わらない者の邂逅と別離、死を選んだ者と死を選ばなかった者の物語を、家族愛とヒップホップ『最後にして最初の人類』『スターメイカー』(オラフ・ステープルドン)や『火の鳥』のような大いなるスケール感を交えて描いた上下巻。どこまでも澄んでいて、どこまでも胸に迫る。



ボクらは魔法少年 1 (ヤングジャンプコミックス)
福島 鉄平
集英社 (2018-09-19)
売り上げランキング: 18,298


カニバリズム! (ムーグコミックス)

ジーウォーク (2018-09-28)


「アマリリス」で切ない少年同士の友情話を描いた福島鉄平が、そのポップでフェティッシュな作家性を余すところなく全力で叩きつけてきた『ボクらは魔法少年』「We Gotta Power」の歌詞じゃないですが、夢中になれるモノが いつか君をすげぇ奴にするんだ――そんな内容です。KAWAIIが押し寄せて来る 泣いてる場合じゃない。サイボーグご飯マンガ「サイバネ飯」、そして現在、ギャルがバディを組んでヴァイオレンスなアクションを景気よくブッ放す『東京入星管理局』をCOMIC MeDuで連載中の窓口基が、同人誌でこれまで発表したウェルメイドな人肉食漫画の再録&商業単行本化が、窓『カニバリズム!』。淡々と、マニュアル的に、手際よく、人の肉を解体し、喰らう、あくまで淡々と。それが素晴らしくいい。余すところなく「人間味」にあふれている。



IT’S MY LIFE (11) (裏少年サンデーコミックス)
成田 芋虫
小学館 (2018-10-19)
売り上げランキング: 28,736


テロール教授の怪しい授業(1) (モーニングコミックス)
講談社 (2018-12-21)
売り上げランキング: 80


 裏サンデー、マンガワンで2014年12月から足掛け4年に渡って連載された、成田芋虫『IT'S MY LIFE』が全11巻で完結。全てのキャラクターと物語を有機的に描き切った万感のアットホームファンタジーでありました。キャラクターといいストーリーといい、成田氏は「積み重ねていく」のが本当にうまい人だなと思います。現在別冊ドラゴンエイジにて連載中の『KILLING ME /KILLING YOU』で描かれるメインキャラクター2人の旅路と積み重ねの行方にも期待です。カルロ・ゼン&石田点『テロール教授の怪しい授業』は画期的切り口のテロ&カルト論コミック。白熱教室ならぬ爆熱教室。これは10巻分くらい回を重ねていけばすごいものになりそうな予感がする。モリモリと重ねていっていただきたい。

2018年12月27日木曜日

2018年ベストブック20選

《過去のベスト》
2012年ベスト ▼2012年裏ベスト
2013年ベスト
2014年ベスト
2015年ベスト
2016年ベスト
2017年ベスト


「2018年ベストブック20選」



▼石川宗生『半分世界』
▼宮内悠介『超動く家にて 宮内悠介短編集』
▼古橋秀之『百万光年のちょっと先』
▼瘤久保慎司『錆喰いビスコ』
▼ドン・ウィンズロウ/田口俊樹[訳]『ダ・フォース』
▼アンジェラ・カーター/望月節子[訳]『新しきイヴの受難』
▼森瀬繚『All Over クトゥルー クトゥルー神話作品大全』
▼エイドリアン・マッキンティ/武藤陽生[訳]『コールド・コールド・グラウンド』
▼藤田祥平『手を伸ばせ、そしてコマンドを入力しろ』
▼ジョー・イデ/熊谷千寿[訳]『IQ』
▼ドナルド・E・ウェストレイク/矢口誠[訳]『さらば、シェヘラザード』
▼フィリップ・マティザック/安原和見[訳]『古代ローマ旅行ガイド 一日5デナリで行く』
▼平山夢明『恐怖の構造』
▼土屋健/前田晴良[監修]『化石になりたい よくわかる化石のつくりかた』
▼ヴィクトル・ペレーヴィン/東海晃久[訳]『iphuck 10』
▼竹宮ゆゆこ『あなたはここで、息ができるの?』
▼飛浩隆『零號琴』
▼マーク・ブレンド/ヲノサトル[訳]『未来の〈サウンド〉が聞こえる 電子楽器に夢を託したパイオニアたち』
▼キム・ニューマン/北原尚彦[訳]『モリアーティ秘録』
▼鈴木智彦『サカナとヤクザ 暴力団の巨大資金源「密漁ビジネス」を追う』


半分世界 (創元日本SF叢書)
石川 宗生
東京創元社
売り上げランキング: 93,497


超動く家にて 宮内悠介短編集 (創元日本SF叢書)
宮内 悠介
東京創元社
売り上げランキング: 336,348


百万光年のちょっと先 (JUMP j BOOKS)
古橋 秀之
集英社
売り上げランキング: 125,901


 こってりと、そして飄々と書き綴られた奇想がたまらない、石川宗生『半分世界』。他愛ないネタとパスティーシュの大盤振る舞いに、清水義範的味わいも感じさせてくれる、宮内悠介『超動く家にて』。いまはなき《SFJapan》掲載のショートショートが7年を経て矢吹健太朗の挿絵とともに書籍化を果たした、古橋秀之『百万光年のちょっと先』。それぞれ中編枠、短編枠、掌編枠として印象深いものがありました。



ダ・フォース 上 (ハーパーBOOKS)
ドン ウィンズロウ
ハーパーコリンズ・ ジャパン
売り上げランキング: 20,854

ダ・フォース 下 (ハーパーBOOKS)
ドン ウィンズロウ
ハーパーコリンズ・ ジャパン
売り上げランキング: 13,480


サカナとヤクザ: 暴力団の巨大資金源「密漁ビジネス」を追う
鈴木 智彦
小学館
売り上げランキング: 330


 ドン・ウィンズロウ『ダ・フォース』鈴木智彦『サカナとヤクザ』は今年の個人的“悪徳”枠2冊。『ダ・フォース』は警察小説警官デニー・マローンの輝かしい栄光と哀しき転落の物語。組織内外での喰い合いで泥沼にからめとられ、葛藤の末に決断にいたるマローンは必ずしも万人の共感を得られるようなキャラクターではないし、ストーリー的にはハデさも疾走感も抑えめ、ともすれば地味とも所帯じみているともいえるのだけれども、ウィンズロウのズバ抜けた筆力でどこまでも太く読ませるノワール・ドラマ。「マローン班」の気心の知れた面々の小粋なやりとり、挿入されるエピソードがどれもいいです。



錆喰いビスコ (電撃文庫)
錆喰いビスコ (電撃文庫)
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瘤久保 慎司
KADOKAWA (2018-03-10)
売り上げランキング: 5,611


 瘤久保慎司『錆喰いビスコ』は、防衛兵器により文明が崩壊し東京に大穴がブチ空いた荒廃した日本を舞台にしたポストアポカリプス冒険活劇。例えるならばアクション増し増しの『アド・バード』(椎名誠)。あるいは『モンド9』(ダリオ・トナーニ)に通じる世界観。『モンド9』が荒廃した世界を駆ける超巨大駆動ストラクチャーが中心だったのに対し、こちらはイキのいいキレたキャラクターたちが東京砂漠ならぬ埼玉鉄砂漠を駆け、血生臭く歯切れの良いドンパチを繰り広げる。オールドスクールな魅力も抜群。早々に第2巻も刊行され、コミカライズも決定。年明けに第3巻の刊行が予定と、ノリにノッています。



新しきイヴの受難
新しきイヴの受難
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アンジェラ カーター
国書刊行会
売り上げランキング: 125,428


All Over クトゥルー -クトゥルー神話作品大全-
森瀬繚
三才ブックス (2018-03-10)
売り上げランキング: 66,864


 アンジェラ・カーター『新しきイヴの受難』は酩酊感を伴ったアダムとイヴのremixとでもいう趣。拉致された男が人体改造で女となり、男に生まれたが女として生きてきた者とやがて結ばれ身籠もるというストーリー。マジックリアリズムな趣で男性性と女性性への意識を攪拌する。「歴史が神話を追い抜いた――そして廃れさせた」という本編のセリフは本作を形容している感もありました。森瀬繚『All Over クトゥルー』は、「クトゥルー」のクの字に少しでもかすっている作品をカテゴリ別に分類した「クトゥルー神話作品総カタログ」を大幹とする労作。前田俊夫コミカライズ版『邪聖剣ネクロマンサー』や、フロントミッション ガンハザード(「ナイトゴーント」が敵機として登場する)なども紹介されており、思わず邪悪な笑みを浮かべてしまいました。



コールド・コールド・グラウンド (ハヤカワ・ミステリ文庫)
エイドリアン マッキンティ
早川書房
売り上げランキング: 92,699


IQ (ハヤカワ・ミステリ文庫)
ジョー イデ
早川書房
売り上げランキング: 19,224


 エイドリアン・マッキンティ『コールド・コールド・グラウンド』は、はみだし巡査部長ショーン・ダフィの活躍を描くアイルランドの警察小説シリーズ第1作(タイトルはトム・ウェイツの曲に由来)。ジョー・イデ『IQ』はロサンゼルスを駆ける切れもの無免許探偵、アイゼイア・クィンターベイこと“IQ”を主人公としたシリーズ第1作。銃撃と爆弾と隣り合わせの日常をタフでウェットに生き抜くはみだし系刑事ショーン・ダフィ、クールな観察眼と哀しき過去を持つアイゼイアと、腐れ縁の相棒ドッドソン(元ギャング、料理がうまい)――両作とも主人公サイドのキャラクター造型が非常に魅力的。また、音楽と縁深い作品同士でもある。前作がロック&クラシックなら、後作はヒップホップ&ジャズといったところ。



手を伸ばせ、そしてコマンドを入力しろ
藤田 祥平
早川書房
売り上げランキング: 81,708


 AUTOMATONでレビューやコラムを書かれているSyohei Fujitaと、IGN JAPANでゲームにまつわる物語を綴られている「電遊奇譚」を連載中の藤田祥平が同一人物だということに、つい一年前まではまったく気づいていなかったのですが、氏が今年発表した『手を伸ばせ、そしてコマンドを入力しろ』は、彼の半生記であり私小説でありゲーム小説。現実世界と電脳世界が交錯する「物語」としても心に残りました。書籍版『電遊奇譚』は本書と表裏一体の関係を成しており、併せて読むとまた面白い。



さらば、シェヘラザード (ドーキー・アーカイヴ)
ドナルド・E・ウェストレイク
国書刊行会 (2018-06-27)
売り上げランキング: 284,709


古代ローマ旅行ガイド (ちくま学芸文庫)
フィリップ マティザック
筑摩書房
売り上げランキング: 199,435


 ドナルド・E・ウェストレイク『さらば、シェヘラザード』は、犯罪小説やコメディ・ミステリの名手ウェストレイクが「〈書けないこと〉を技巧とネタを尽くして書きまくった本」であり、「スランプに陥ったポルノ小説のゴーストライターを主人公としたメタ・フィクション」であり。率直に言えば「ヘンな本」です。テクニカルにしてナンセンス。実験的ともいえるし禁じ手ともいえる奇書。フィリップ・マティザック『古代ローマ旅行ガイド』は、タイムスリップ感覚で古代都市ローマを紹介する、気安く読める「西暦二〇〇年のトラベル・ガイドブック」。A e s t h e t i cなカバーも素晴らしい。



化石になりたい よくわかる化石のつくりかた (生物ミステリーPRO)
土屋 健
技術評論社
売り上げランキング: 110,494


 土屋健/前田晴良『化石になりたい』は、「入門編」「洞窟編」「永久凍土編」「湿地遺体編」「琥珀編」「火山灰編」「石板編」「油母頁岩編」「宝石編」「タール編」「立体編」「岩塊編」「番外編」に章立てされた化石本。己を化石として残すならどうしたらよいか、という思考実験の書としてもよい。「汚物溜めに落ちる」はいいセンを行くらしく、人間の尊厳を捨てる覚悟があれば化石化に一歩近づけるようです。土屋氏の著作では、本書の少し前に出た『怪異古生物考』(監修:荻野慎諧)も面白かった。新たなる『幻獣辞典』といった趣。



恐怖の構造 (幻冬舎新書)
恐怖の構造 (幻冬舎新書)
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平山 夢明
幻冬舎 (2018-07-30)
売り上げランキング: 75,228


 平山夢明『恐怖の構造』は、パラパラとページをめくるだけでもかなり示唆に富む面白さ。不安・恐怖が人間に及ぼす影響、エンタメにおいて如何に作用しているかが軽妙に綴られており、第4章「ホラー小説を解読する」が特に素晴らしい。自転車屋で空気を入れていたら見知らぬオッサンが空気の入れ方がなっとらんといきなりやってきて空気を入れまくってタイヤを破裂させ車体も破壊し出てきた店主もぶん殴ったという幼少期の一幕や、奥さんがもらってきた市松人形が次々と周囲にヤバい影響を及ぼしていく「川崎大師事件」がサラっと第1章で語られているあたりもスリリングです。



iPhuck10
iPhuck10
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ヴィクトル・ペレーヴィン
河出書房新社
売り上げランキング: 115,679


 ヴィクトル・ペレーヴィン『iphuck 10』は、2017年発表の長編の邦訳。あっちこっちエラいことになっている近未来を舞台に、スマートフォンめいたハイスペックな〈性具〉にダウンロードされたアルゴリズム(犯罪捜査と小説執筆を行う)がたわごとを理性的かつ饒舌に綴りまくっていく批評的・挑発的オメガ・ノベル。初期の作風からずいぶんと変わったものだと仰天しつつ、もはや狂気なのか正気なのかもわからないままにズルズル引きずり込まれてしまう。



あなたはここで、息ができるの?
竹宮 ゆゆこ
新潮社
売り上げランキング: 72,983


 一般文芸にフィールドを移してからの竹宮作品もだいたい追ってきていますが、竹宮ゆゆこ『あなたはここで、息ができるの?』は、ここにきて変化剛速球をブン投げてきた! と驚かされた一冊。先に挙げたウェストレイク『さらば、シェヘラザード』と、ある意味で近いといえば近い感触かも。しかしながらパワーあふれる語り口はまぎれもなく竹宮節であり、ドライヴ感を伴った「一点突破の」ストレートなストーリーです。



零號琴
零號琴
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飛 浩隆
早川書房
売り上げランキング: 6,949


 7年に及ぶ改稿作業を経てついにお目見えした飛浩隆『零號琴』は、「基本、お気楽な読み物」「「新しい」ものは、たぶんない」と著者あとがきにある通りの肩肘張らずに読めるSFエンターテインメントであり、古今のエンタメ作品の残響がこだまする異形のスペースオペラであり、極大スケールの「読む音楽」小説ともいえる、贅沢にしてポリフォニックなイリュージョン。「最終回の向こう側」というフレーズが今も頭の内から離れません。


未来の〈サウンド〉が聞こえる 電子楽器に夢を託したパイオニアたち
マーク・ブレンド
アルテスパブリッシング
売り上げランキング: 9,652


 ひとくちに「電子音楽」といっても色々あるわけですが、同分野に対する知的好奇心をモリモリ満たしてくれる一冊が、マーク・ブレンド『未来の〈サウンド〉が聞こえる』。電子音楽の草創期・黎明期から、ポップカルチャーへの浸透、商業ベース、メインストリームへの乗り上げを大衆文化的視点で見通しています。翻訳は、明和電機やブラックベルベッツなどでも知られるミュージシャンのヲノサトル。本書の翻訳企画を出版社に持ち込まれたのも氏であります。

 

モリアーティ秘録〈上〉 (創元推理文庫)
キム・ニューマン
東京創元社
売り上げランキング: 14,907

モリアーティ秘録〈下〉 (創元推理文庫)
キム・ニューマン
東京創元社
売り上げランキング: 14,902


 圧倒的物量と魅力を誇る歴史改変スーパー吸血鬼大戦〈ドラキュラ紀元〉シリーズ(現在アトリエサードよりシリーズが順次復刊中)で知られるキム・ニューマン。彼が書き上げたホームズ・パスティーシュならぬ「モリアーティ・パスティーシュ」が『モリアーティ秘録』。〈ドラキュラ紀元〉シリーズと同様の手さばきとサービス精神でモリアーティとモラン大佐の冒険が活写され、大量の原注や訳注にも笑みがこぼれることうけあいの、ザ・クライム・エンターテインメントです。

2018年12月26日水曜日

2018年ベストアルバム20選

【過去のベスト】
2007年 ▼2010年
2012年 ▼2014年
2015年 ▼2016年
2017年


「2018年ベストアルバム20選」



▼Cody Carpenter『Cody Carpenter's Independence』
▼DEZOLVE『PORTRAY』
▼JUDAS PRIEST『Firepower』
▼APOGEE『Higher Deeper』
▼Pineapple Express『Uplift』
▼YAMANTAKA // SONIC TITAN『Dirt』
▼永谷喬夫『Heartbeat』
▼Ghost『Prequelle』
▼浜田麻里『Gracia』
▼Louis Cole『Time』
▼TWRP『Welcome to TWRP』
▼GABRIELS『Fist of the Seven Stars Act 2 - Hokuto Brothers』
▼Aiko OI『天地創造~始まりの七日間~』
▼汝、我が民に非ズ『つらい思いを抱きしめて』
▼Seventh Wonder『Tiara』
▼少女☆歌劇 レヴュースタァライト『ラ レヴュー ド マチネ』『ラ レヴュー ド ソワレ』
▼RISE OF THE NORTHSTAR『The Legacy Of Shi』
▼Virtual Cat『Rojiura Cat』
▼村井研次郎『UNDERMINED』
▼JYOCHO『美しい終末サイクル』





Cody Carpenter's Interdependence
Cody Carpenter's Interdependence
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Blue Canoe Records (2018-01-26)


 父 ジョン・カーペンターの音楽的な右腕としてアルバムの作曲やレコーディング、ツアーなどに参加するかたわら、プログレッシヴ・ロック・ユニット「Ludrium」でも活動を続けているマルチプレイヤー、コーディ・カーペンター。ジミー・ハスリップ、ヴァージル・ドナティら強力なプレイヤーを迎えて制作した6thアルバム『Cody Carpenter's Interdependence』は、これまでのコンスタントな活動の集大成的傑作と呼べる内容です。また、今年下半期には、2014~2018年に制作したインスト曲をリミックス&リマスターの上でまとめた『Neon Sludge 2014-2018』『Mind Over Matter 2014-2018 Vol.1Vol.2』がリリースされました。


★Cody Carpenter『Cody Carpenter's Interdependence』(2018)
http://camelletgo.blogspot.com/2018/02/codycarpentersInterdependence.html


PORTRAY(ポートレイ)
PORTRAY(ポートレイ)
posted with amazlet at 18.12.26
DEZOLVE(ディゾルブ)
キングレコード (2018-02-07)
売り上げランキング: 82,459


 ジャズ/フュージョンのみならず、ロック、ポップス、ゲームミュージックやアニメのレコーディング/セッション経験にも富んだメンバーからなる、目下急成長中のテクニカル・フュージョン・バンド DEZOLVE。彼らがキングレコードに移籍して放ったメジャーデビューアルバム『PORTRAY』(通算3rdアルバム)は、ジャパニーズ・フュージョンの様式美を叩き込みつつ、各メンバーの持ち味がこれでもかとあふれ出した痛快な快作でした。2019年2月には4thアルバム『AREA』のリリースを控えております。


★DEZOLVE『PORTRAY』(2018)
http://camelletgo.blogspot.com/2018/02/dezolve-portray.html


ファイアーパワー(通常盤)
ジューダス・プリースト
SMJ (2018-03-07)
売り上げランキング: 11,091


 メタル火砲が大爆発し、ファイアーパワーがファイアーパワーで震え上がらせた結果、完全勝利してしまったJUDAS PRIEST『Firepower』。「正義と救済の戦士である凶暴なメタリアンの溶融メタルのごとくドロドロとした怒りの炎上によって創造された究極の火力を持つ神ティタニカスのあの最高のデザインはどうなっているんだい?」とお悩みのアナタ、今すぐ「No Surrender」のMVを観ろ。ジョイメカファイトだ。


★メタル火砲、大爆発。ファイアーパワーで震え上がらせるジューダス・プリーストの新メタルモンスター「ティタニカス」の誕生
http://camelletgo.blogspot.com/2018/03/firepower-titanicus.html


Higher Deeper
Higher Deeper
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APOGEE
SPACE SHOWER MUSIC (2018-03-21)
売り上げランキング: 121,474





 APOGEEの5thアルバム『Higher Deeper』は、さらに一皮つるんと剥いてきた感のある仕上がり。太いシンセサウンドがジョワーっと染み出すチルウェイヴポップが全開。『Uplift』は、インド・バンガロールの8人組プログレッシヴ・フュージョン・バンド Pineapple Expressの4曲入りデビューEP。コナッコル(インドの伝統的なボイスパーカッション)が有機的に楽曲と融合、複雑にして爽快、なおかつメジャー感もあるクリティカルな快作です。本作リリース後、映画「Bhaag Milkha Bhaag(走れ、ミルカー・シン)」(2013)の劇中歌のカヴァーや、プレイバックシンガー ベニー・ダヤルとのコラボレーション曲「FIRE」を発表しており、これまた絶品。スキル、センスともに要・注目のバンドです。



Dirt
Dirt
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Paper Bag Records (2018-03-23)


Heartbeat
Heartbeat
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永谷喬夫
High Wind (2018-05-30)
売り上げランキング: 121,511


 カナダの〈PSYCHEDELIC NOH(能) WAVE OPERA FROM THE BEAST ASIAN DIASPORE〉ことYamantaka // Sonic Titan『Dirt』は「ホデノショニ連邦と仏教徒をテーマとする1987年制作の未発表アニメの架空サントラ」をテーマに、最後まで不穏さと緊張感が途切れることのない、そして予定調和で終わらないトータルアルバムとして存分に気が吐かれています。『Heartbeat』は、2010年の解散から8年、今年5月に再結成を果たしたSURFACEの永谷喬夫のキャリア初となるソロアルバム。作編曲家やギタリストとしてのこれまでの蓄積が爽やかに花開いた一枚です。SURFACEの再始動も嬉しい。


★Yamantaka // Sonic Titan『Dirt』(2018)
http://camelletgo.blogspot.com/2018/04/yamantakasonictitan-dirt.html



PREQUELLE
PREQUELLE
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GHOST
SPINE (2018-06-01)
売り上げランキング: 9,933


Gracia (通常盤)
Gracia (通常盤)
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浜田麻里
ビクターエンタテインメント (2018-08-01)
売り上げランキング: 1,719


Time [解説・歌詞対訳 / ボーナストラック1曲収録 / 国内盤] (BRC575)
Louis Cole ルイス・コール
BEAT RECORDS / BRAINFEEDER (2018-08-10)
売り上げランキング: 13,413


 Ghost『Prequelle』は、バックバンドとの訴訟問題により大きな岐路に立ったパパ・エメリトゥス(トビアス・フォージ)が「カーディナル・コピア」として新生して放った第一作。ゴタゴタすらもバンドの世界観に内包してしまうトビアスのセルフブランディング能力の高さ、曇るどころかますます冴えるソングライティング、どこをとっても老獪なプロフェッショナルでありエンターテイナーです。浜田麻里のデビュー35周年、ビクター復帰第一弾アルバム『Gracia』は、1曲目で思いっきりブチのめし、2曲目で度肝を抜いてくる。レコーディングメンバーにはマルコ・ミンネマンもビリー・シーンも高崎晃もポール・ギルバートもマイケル・ロメオもクリス・インペリテリもクリス・ブロデリックもデレク・シェリニアンもおり、最高のヴォーカルが最密の演奏を得て爆炎と化しております。『Time』は奇才ルイス・コールの7年ぶりのソロアルバム。KNOWERの相方のジェネヴィーヴ・アルタディをはじめ、ブラッド・メルドー、サンダーキャット、デニス・ハムがゲスト参加し、絶妙なポップセンスを援護射撃。今年、突如として復活した謎の便所覆面デュオのClown Coreとの関係も気になるところですね(すっとぼけ)


★「Clown Core = KNOWER(ルイス・コール)」説を考える
http://camelletgo.blogspot.com/2018/07/clowncoreandknower.html



Welcome to TWRP
Welcome to TWRP
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株式会社ファブトーン (2018-09-26)


 時間と空間を超越するカナダのギャラクティック・エレクトロ・ファンク・バンド TWRP(Tupperware Remix Party)。5月に待望の1stフルアルバム『Together Through Time』をリリースし、9月には日本独自編集盤『Welcome to TWRP』で日本デビューも果たしました。盟友であり、たびたび共演しているNINJA SEX PARTYともども注目のバンドです。


★TWRP『Together Through Time』(2018)
http://camelletgo.blogspot.com/2018/06/TWRPtogetherthroughtime.html

★TWRP『Welcome to TWRP』(2018)
http://camelletgo.blogspot.com/2018/09/welcometoTWRP.html



Fist of the Seven Stars - Act 2: Hokuto Brothers
Rockshots Music (2018-08-31)


 GABRIELS『Fist of the Seven Stars Act 2』は、イタリアのメタルオペラプロジェクトが総勢30名で制作した北斗の拳トリビュートアルバム第二弾。まさに愛で空が落ちてくるレベルで北斗の拳への愛が極まってしまった。ジャギのイメージソング「Scream My Name」がアルバム屈指の名曲で、泣きのキーボードソロが怒涛のごとくブチ込まれており、ジャギへの憎しみと愛を感じるパワーバラードチューン。熱量の塊が胸に迫る。


★GABRIELS『Fist of the Seven Stars Act 2 - Hokuto Brothers -』(2018)
http://camelletgo.blogspot.com/2018/09/gabriels-hokutobrothers.html



天地創造〜始まりの七日間〜 (通常盤)
Aiko Oi
Nature and Human beings (2018-09-16)
売り上げランキング: 241,911


つらい思いを抱きしめて
つらい思いを抱きしめて
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汝、我が民に非ズ
インディーズ (2018-09-26)
売り上げランキング: 13,817


TIARA [CD]
TIARA [CD]
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SEVENTH WONDER
FRONTIERS MUSIC SRL (2018-10-12)
売り上げランキング: 40,250


『天地創造 ~始まりの七日間~』は、BEMANIシリーズやCHUNITHMシリーズで華麗極まる曲を次々と発表し、魅了してきたコンポーザー/サウンドデザイナー Aiko Oi(大井藍子)の初のオリジナルアルバム。ピアノ/シンセを主体に、ヴァイオリン、マリンバ、ギター、ヴォーカル/コーラスを交え、天地創造を7つの楽曲で表現。清浄なる雰囲気とともに、ジャンルを越境するサウンドを展開しています。底知れないセンスもさることながら、まだまだ謎の多い人だなと。町田康 新プロジェクトこと「汝、我が民に非ズ」『つらい思いを抱きしめて』は、同プロジェクト初の吹き込み盤。まがりなきにもマーチダさんのバンドにこう言うのもなんなのですが、鴨南蛮うどんダシの如くツヤのあるポップ&ロック・サウンドは、今年の思わぬダークホースでありました。SEVENTH WONDER『Tiara』は8年かけた練り込みと熟成の結晶体。トミー・カレヴィックが「We will be victorious.」と高らかに歌い上げる先行公開曲の「Victorious」がマスターワークスといっていい大名曲でしたが、それに比肩する旨味が凝縮された曲が脇をみっちり固めています。


★汝、我が民に非ズ『つらい思いを抱きしめて』(2018)
https://camelletgo.blogspot.com/2018/12/nanjiwagataminiarazu.html


「少女☆歌劇 レヴュースタァライト」劇中歌アルバムVol.1「ラ レヴュー ド マチネ」
スタァライト九九組
ポニーキャニオン (2018-08-22)
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「少女☆歌劇 レヴュースタァライト」劇中歌アルバムVol.2「ラ レヴュー ド ソワレ」
スタァライト九九組
ポニーキャニオン (2018-10-17)
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 先のサントラ20選のエントリでも書きましたが、「少女☆歌劇 レヴュースタァライト」は誠に凄まじい作品でありました。舞台とアニメの二層展開による相互補完/複数の解釈、さらにアニメ自体のエピソードの練られた演出や重層的なつくりに胸躍らされ、ある種の極北を観たという感慨があります。映像に合わせて/映像からのインスピレーションも加味しながら、作詞に至るまで練りに練られたレヴュー曲(劇中歌)も素晴らしく、アルバム『ラ レヴュー ド マチネ』『ラ レヴュー ド ソワレ』はぜひ2枚ワンセットで聴いていただきたい。その両方を聴いたなら、あなたは永遠の願いを手に入れることでしょう。


★少女☆歌劇 レヴュースタァライト『ラ レヴュー ド マチネ』『ラ レヴュー ド ソワレ』『オリジナル・サウンドトラック』(2018)
https://camelletgo.blogspot.com/2018/11/revuestarlight.html



ザ・レガシー・オブ・シ〜SHIの伝承【CD(日本語解説書封入/Northcard付き/日本語解説書封入/歌詞対訳付)】
ライズ・オブ・ザ・ノーススター
ワードレコーズ (2018-11-02)
売り上げランキング: 108,920


 フランスの泰斗、RISE OF THE NORTHSTARは相変わらずブレない。永遠のジャンプ少年ミクスチャーFURYOハードコアメタリックスタイルで大乱舞。「王子のように歩き、サイヤ人のように踏み潰す」「天地魔闘の構え、敗れない構え」「我愛羅と彼の母のように、触れられない韻」……。最新作『The Legacy Of Shi』では、七弦ギターの全面的な導入により、メタル・クロスオーヴァーFURYOサウンドはよりヘヴィに、よりタフに超越。お前たちはもうSHIを伝承したか?






 今年のバーチャルねこのメキメキな躍進ぶりには目を見張りました。6月に1st『Rojiura Cat』と2nd『Yaneura Cat』、7月に3rd『July Cat』、9月に4th『Orange Cat』、10月に5th『Rojiura Cat Extend』、12月に6th『North Cat』と、6枚のアルバムをリリース。旺盛なクリエイティヴィティもさることながら、アルバムを出すごとに「仕上がって」きているのを感じました。あまりにも頼もしい。ねこなのに? ねこだから? いいえ、ねこゆえに。公式webサイトが魔法のiらんどの無料ホームページサービスというのも味わいがある。



UNDERMINED
UNDERMINED
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村井研次郎(cali≠gari)
バップ (2018-11-07)
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『UNDERMINED』は、SEX MACHINEGUNSやELLEGUNS、cali≠gariなどで知られるザ・凄腕ベーシスト 村井研次郎の初のインストゥルメンタル・ソロアルバム。元々ポップなプログレが好きだという村井氏がプログレに軸を置いて制作したという本作は、歯切れよくポップ&ハードにトバしまくった快作。テクニックよし、楽曲よし、そして高密度の音でお出迎えされます。アレンジャーは、NARASAKIの弟子筋である諸田英司。さらにCOALTAR OF THE DEEPERS、NoGoD、ELLEGUNSの面々や、cali≠gariの桜井青、石井秀仁がゲスト参加しています。



美しい終末サイクル※限定盤(CD+DVD)
JYOCHO
No Big Deal Records (2018-12-05)
売り上げランキング: 1,636


 ミニアルバムとEPを経て、師走に満を持してリリースされたJYOCHOの1stフルアルバム『美しい終末サイクル』は、現在進行形でヘヴィローテーション中です。プログレッシヴ・ロック、ポスト・ロック、マスロックetcetc……がアコースティカルな響きと静かなグルーヴ感、猫田ねたこのヴォーカルのもとに豊潤に溶け合い、優しく包み込む。それでいて凄みのある「ポップ」サウンド。大海のうねりのようなアルバムです。