2016年2月26日金曜日

ジャンルを越境する、シンガポールの実験音楽集団 ― The Observatory『August is the Cruellest』(2016)



 シンガポールのエクスペリメンタル・ロック・バンド ジ・オブザーヴァトリー。2000年代初頭より活動を始め、デビューアルバム『Time of Rebirth』(2004)以降、現在に至るまで精力的なリリースや世界各国でのライヴを展開。現メンバーであり、シンセサイザー/エレクトロニクス担当のユエン・チー・ワイは、大友良英氏の呼びかけで結成されたインターナショナル即興グループFEN(Far East Network)のメンバーとしても名を連ねております。現在進行形でジャンルの越境を続けており、その実験的な作風はアルバムごとに変化。『Gezeitentümpel』(2013)ではフィールドレコーディング/ドローンを、『Oscilla』(2014)では長尺のヘヴィ・ロックを、『Continuum』(2015)ではガムランからの影響を色濃く投影したサウンドスケープを展開してきた彼らですが、本作『August is the Cruellest』では、ポストロックのメロウな興趣にも富んだ内容。また、レコーディングの大部分はノルウェーで敢行されており、MOTORPSYCHOなどの北欧ヘヴィ・ロック勢にも近いドライヴ感が生まれています。タイトルは「四月はもっとも残酷な月だ」という有名な一節ではじまるエリオットの長編詩「荒地」に共鳴したもの。彼らは八月がもっとも残酷な月だと掲げており、公式サイトでは「残り火は輝くかもしれないが、燃焼の悪夢は決して終わらない。破壊を調査し、突破口を形成するときが来ている」という一文が添えられております。これは、シンガポールやマレーシアが焼畑農業を介して長年被っている越境大気汚染問題が根っこにあるものと思われます。


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