2016年2月9日火曜日

爽やかに時空が歪み、淡い歌心が郷愁を誘うグラマラス・ポップ ― クウチュウ戦『Sukoshi Fushigi』(2016)

Sukoshi Fushigi
Sukoshi Fushigi
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クウチュウ戦
SPACE SHOWER MUSIC (2016-01-20)
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 2008年に結成された歌謡ポップバンド クウチュウ戦。空飛ぶ円盤に弟が乗りそうなジャケットをあしらい、アルバムタイトルに『プログレ』の四文字を躍らせ、13分、9分、15分というロングレンジの楽曲を引っさげて2013年にシーンに登場。独特の立ち位置で繰り出される歌謡プログレなサウンドは、あらぬ方向へ展開したかと思えばスルっと元に戻ったり戻らなかったりするというただならなさ。確かな演奏力、詞をひっくるめてあふれだす70年代感、そしてヴォーカル&ギターのリヨ氏のキャラクターもあいまって、爽やかに時空が歪むような不思議なぶっ飛び方をしています。その独特の世界観はミュージックビデオにおいても発揮されており、ヤーチャイカや太平洋不知火楽団も手がける佐藤敬氏による"佐知子"のMVを観たときには度肝を抜かれました。インタビューによると、井上陽水、さだまさし、PINK FLOYD、KING CRIMSONの四組がリヨ氏のルーツとのこと。なるほど納得の面々と言えましょう。また、公式YouTubeアカウントには陽水の"夢の中へ"をカヴァーしたライヴ映像が上がっており、部分的にYESの"燃える朝焼け"に可変もするといったパフォーマンスを目にすることができます。また、キーボーディストのベントラーカオル氏は、テクニカル・インストゥルメンタル・バンド LAGITAGIDAのサポートメンバー 五十嵐馨としてもバリバリ活動中であることを付記しておきます。




 2015年5月に、クウチュウ戦はファーストミニアルバム『コンパクト』をリリース。レコ発ライヴをソールドアウトさせた勢いのまま新作のレコーディングに入り、二枚目のミニアルバムとして完成したのが本作『Sukoshi Fushigi』です。私事になりますが、今年の頭にラジオでふと耳にした曲が、急転直下のプログレ展開から“光の速さで動けばどこへも行ける 月までひとっ飛び 木星まで38分♪”などと歌い出しだしたので耳を疑ったのですが、それがこのアルバムの冒頭曲"光線"でした。同曲はMVもあり、キュウソネコカミやクリープハイプ、ゆるめるモ!なども手がける加藤マニ氏が制作を担当。とっちらかった遊び心も楽しい内容です。"青い星"では、主人公のフィーリングの高ぶりがトロピカルでスペイシーな楽曲展開に反映されております。続く"雨模様です"も、ユルユルと気持ちのよいポップソング。"台風"はゴリゴリなベースラインが引っ張る、疾走感に富むハードプログレチューン。途中で急カーブとストップ&ゴーな展開も炸裂しています。これまでとは毛色の異なる"にゅうどうぐも"は、リヨ氏のソロ曲をベースとしたインストゥルメンタル。ピアノトロニカにも近いキラキラとした小品です。ラストはゆったりとスロウな"エンドレスサマー"で〆。けだるげで、タメの効いた歌心がじんわりと身に染みてゆきます。どこか郷愁が淡くたゆたう、少し不思議でのっぴきならない世界に、アナタもぜひ足を踏み入れてみませんか?



「INTERVIEW:クウチュウ戦」
(from うたまっぷ.com|2016.02.03)

https://koochewsen.com/
https://www.youtube.com/channel/UCTVInKDUcoBrKJJgVLaoz2A