2015年4月30日木曜日

(続)DIMENSION、T-SQUARE、SOLID BRASSの面々の強力な演奏で仕上げられた、「マリオカート8」BGM

DIMENSION、T-SQUARE、SOLID BRASSの面々の強力な演奏で仕上げられた、「マリオカート8」BGM
http://camelletgo.blogspot.com/2014/11/mariokart8bgm.html

BGMのパフォーマンスにやたら力が入っている「マリオカート8」。いかほどのものなのかということは以前にも書きました。第一弾の追加コンテンツの演奏映像が、任天堂の公式YouTubeアカウントで昨年アップロードされましたが、今年4月に第二弾の演奏映像がアップされました。今回も素晴らしいパフォーマンスであります。

演奏メンバー:

増崎孝司 (guitar / DIMENSION)
川崎哲平 (bass / DIMENSION)
坂東慧 (drums / T-SQUARE)
中川英二郎
(trombone / 侍Brass, E'nJ, 山下洋輔スペシャルビッグバンド ほか)
山本拓夫
(soprano/baritone sax / SOLID BRASS、渡辺貞夫オーケストラ ほか)
本間将人 (alto sax / JAM Company)
勝田一樹 (alto sax / DIMENSION, JAFROSAX)
高桑英世 (flute)
最上峰行 (oboe / Quintet「H」)
中西俊博 (violin)
佐藤芳明 (accordion / Pot Heads, Salle Gaveau, NADA ほか)












2015年4月28日火曜日

「身体はプログレ。鼓動はミニマル。心はZeuhl。そしてゲーム音楽の愉楽」目の醒める大作エレクトロ・プログレ ― Stig『Velocity』(2015)




 ロシアのチップチューン・レーベルUbiktuneより先ごろリリースされた81番目のカタログである、Stig『Velocity』がとてもよいです。StigことStephen Patterson氏は2000年代初頭より活動を行っている、イングランドはニューカッスル出身のコンポーザー。bandcampではこれまでに十数枚の作品をリリースされております。facebookでのプロフィールに、「Zeuhl(※)の心臓とプログレッシヴ・ロックの身体、ミニマリストの鼓動とビデオゲームミュージックの愉楽」という一文が添えられているのがまたなんともユニークでありますが、そもそも活動初期の2004年にリリースしたアルバム『Trapezoid』からして、各種楽器を駆使してマルチ録音でつくりあげた四部構成のフォーキーなインストゥルメンタル作品であったというツワモノ。初期のマイク・オールドフィールドからの強い影響下にあるというのが如実にうかがえる良作です(name your price=投げ銭でダウンロードできます)。







 初期はピアノ・インストゥルメンタルのアレンジを得意としており、『In Indigo Lost』(2007)や『Biodiversity』(2008)などで、ゲーム音楽からの流れも汲んだ静謐な情緒のある楽曲をたっぷりと聴くことができます。一方でゲームのサウンドトラックや、イベント用の音楽も手がけており、2009年にUbisoftより発表されたレーシングゲーム「Monster 4x4 Stunt Racer」のBGMは彼の作曲によるもの。ここでは一転してハードなロック調のノリのよいインストが中心となっております。





 『arc of eleven』(2011)からは、作風に変化とさらなる主張が見えはじめ、ヴォーカルも入ってくるだけでなく、北欧バンドにも通じるドリーミーなムードを湛えたチップチューン/エレクトロニカが基調になってゆきます。あいだに9分の楽曲を挟んで17分のニューエイジな大曲2曲を擁した『Hydrocycle』(2013)、CDであれば二枚組のヴォリュームで10分越えの楽曲をいくつも収録した『Vital』(2014)と、楽曲の長尺化も目立ってきました。

※クリスチャン・ヴァンデ率いるフランスのバンド MAGMAを祖とする、プログレッシヴ・ロックの一ジャンル。世界各国に存在するMAGMAのフォロワーはいわゆる「Zeuhl系」と呼ばれ、本家よろしく執拗な展開と神秘・呪術的ムードをもったバンドが多い。




 以上、これまでのStig氏のバイオグラフィをざっと追ってみました、そこにきての本作『Velocity』です。やはり大作路線を踏襲しており、ヴィンテージ・チップサウンド(SID、YM2612)とエレクトリック・ドラムのコンポジションによる、それぞれ22分半と27分というのふたつのパートの表題曲からなる作品となっております。エレクトロ/アンビエント、ミニマル・ミュージック、プログレッシヴ・ロック、ゲーム・ミュージック、フュージョンがバランスよく溶け込み、入れかわり立ちかわりで高揚感をもたらしてゆく様は、まさにこれまでの活動の集大成といったところです。過去作ではあまりみられなかったメリハリも感じられるのが、本作を目の醒めるような印象にしているとも感じます。"Velocity, part one"の終盤では、MAGMAを思わせるウネウネとしたバッキングパターンも顔をのぞかせ、まさに「心はZeuhl」を体現してもいます。抜けのよさと求心力もたっぷりの意欲的な大作であり、お見事というほかありません。

Ubiktune: [UBI081] Stig - Velocity

http://www.stigmusic.com/
https://stigmusic.bandcamp.com/
https://www.facebook.com/stigmusicproject

2015年4月24日金曜日

ZYPRESSEN / Happy Family LIVE @吉祥寺MANDA-LA2 2015.04.24


http://zypressen.jp/live/gig-20150424.html

 先ごろ19年ぶりに再始動を果たした、日本のチェンバー・ロック・バンド ツィプレッセンが、対バンにハッピーファミリーを迎えた復活ライヴを観てきました。再始動ツィプレッセンのメンバーは、オリジナルメンバーの五人に、2014年から加入されたヴァイオリニストのTOSHIEさんをあわせて六名。活動休止後も各メンバーはそれぞれ音楽活動をされているのですが、ツィプレッセンとしては19年間のブランクということもあってか、多少のぎこちなさはありました。それでも今のツィプレッセンというのを感じさせてくれるパフォーマンスでとてもよかったです。自分がいる位置からは見えなかったのですが、山上さんから発されていたテルミン様のサウンドはパペット型テルミンによるものだったようですね。旧曲は"Etude" "すべての縦縞は交差したがる"の二曲のみで、あとはおそらく新曲。高揚感のあるミニマル・チェンバー・ロックな趣はそのままに、フロントマンである今井さんのヴォーカリゼーションの比重が増し(素朴な叙情性を感じさせるフォーク調の"G&V"という歌もの曲も)、またサウンドの無国籍感がいくらか増したなという印象。終演後、今日の開演前にかかっていた"心、漂いのままに"と、演奏された"New Music"のデモCDが無料配布されており、ありがたく頂戴させていただきました。バンドの今後の活動にも期待したいです。

ZYPRESSEN

今井弘文(drums, vocal)
TAKAFU(bass)
三宅信義(violin, keyboard)
浅野淳(guitar)
山上晃司(piano etc)
TOSHIE(violin)

1 Dawning~Wind Breaker
2 翼
3 New Music
4 Etude
5 G&V
6 すべての縦縞は交差したがる

[LIVE] ZYPRESSEN@MANDARA-2 | Livin' on the Edge of Sanity
幻想性と複雑性が交錯する、国産チェンバー・ロックの名バンドの今なお色褪せぬ唯一作 ― ZYPRESSEN『Zypressen』(1996)

 続いてハッピー・ファミリー。個人的には昨年のRock in Opposition Japanフェス以来ですが、バンドのこの強靭なまでのヘヴィ・プログレッシヴ・サウンドは、やっぱり小さめのハコの方がより強力にクるなという印象がしました。今回はギターのイズタニタカヒロ氏が中指の負傷のため、最初の二曲は三人での演奏。イズタニ氏の刺さるようなエッジの効いたギタープレイが聴けなかったのは残念でしたが、ズ太いパワートリオの装いというか、ギターレス編成ゆえの新鮮味を少なからず感じました。その後、イズタニ氏の代役を務められるイル・ベルリオーネの井戸沼尚也氏がギターで加わり、90年代に対バンしていたころによく演っていたという"Partei"(1stアルバム『Happy Family』(1995)収録)をプレイ。イル・ベルリオーネもハッピー・ファミリー同様、ヘヴィ・プログレの名バンドであり、氏が代役として参加されると聞いたときは驚いたのですが、微塵も衰えを感じさせない氏のテクニカル・プレイにも大興奮させられました。イズタニ氏のプレイとはまた違った凄みを感じさせられましたね。森本さんはこのごろ井戸沼氏とスタジオ入りされることが多いとのことで、イズタニ氏の負傷の件がなくとも、ライヴでゲストに迎えられる予定があったのだとか。ラストはイル・ベルリオーネのレパートリーである、超絶うさんくさい長尺曲"大仏"(1stアルバム『453分間料理地獄』(1994)収録)のカヴァーで〆。引っ張り続けるズルズルとしたグルーヴの上を、井戸沼氏入魂のギターソロがたっぷりと載せられたハイカロリーな内容でありました。

Happy Family

森本賢一(kyeboard)
市川秀水(bass)
永瀬敬一(drums)
featuring. 井戸沼尚也(guitar from IL BERLIONE, Zubola Funk Laboratory)

1 Slide
2 暴走機関車
3 Partei
4 Animal Spirit
5 水中禅問答
6 大仏 (IL BERLIONE Cover)

2015年4月22日水曜日

幻想性と複雑性が交錯する、国産チェンバー・ロックの名バンドの今なお色褪せぬ唯一作 ― ZYPRESSEN『Zypressen』(1996)

ツィプレッセンツィプレッセン
(1996/02/25)
ツィプレッセン

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 日本のチェンバー・ロック・バンド ツィプレッセンの(現時点での)唯一のフルアルバム。バンド名のツィプレッセンは、宮沢賢治の「春と修羅」の一節に由来するもの。'85年に今井弘文氏(ds)を中心として、高藤順氏(b,cello)、三宅信義氏(vln)の数名で結成され、'86年に山上晃司氏(p)、浅野淳氏(g)が加入したことでラインナップが固まります。その後、ライヴ活動や舞踏家とのコラボレーションを経て、'91年に、LACRIMOSAやIL BERLIONE、Soft Weed Factorと共に、ベル・アンティークの国内のチェンバー・ロック/レコメン系コンピレーションアルバム『Lost Years In Labyrinth』に参加。同CDでは、"Tangent" "Prelude"の二曲が収録されておりました。また、同年の京浜兄弟社のコンピレーションアルバム『誓い虚しく』に、ティポグラフィカやハイポジ、EXPOらと共に参加。ここでは"すべての縦縞は交差したがる"(後に"交差衝動"に改題)が収録されております。これらの三曲はいずれも再録のうえで、オリジナルアルバムに収められることとなります。ちなみに、さる2015年3月にリリースされた京浜兄弟社の10枚組BOXセット『21世紀の京浜兄弟者』のライナーノーツでの岸野雄一氏(コンスタンスタワーズ)のコメントでは、メンバーとの当時の交流について少し述べられております(今井氏は何度かコンスタンスタワーズの演奏に参加されたこともあったのだとか)。

 一時の活動休止期間とレコーディングを経て'96年にリリースされた本作『Zypressen』は、チェンバー・ロック・バンド LACRIMOSAのChihiro.S氏のプロデュースによって完成した全8曲からなるアルバム。「ジュルヴェルヌ・タイプのしっとりとした夢幻的なサウンド」というCDの帯のキャッチにもあるように、"Tangent" "STR (Against the Wind)"などでは、ベルギーのJULVERNEのような、ストリングスや木管楽器の響きを活かした優雅なタッチのサロン・チェンバーを聴かせてくれます。しかしその一方で、"Prelude""交差衝動"のような、マリンバやシロフォンなどを交えた複雑な変拍子とポリリズム、そしてミニマリズムを強調したシリアスな展開にも非常に際立ったものがあります。技巧を凝らしつつも、ユーモラスな表情もあり、ストイックなようでストイックに行き過ぎない、この絶妙さが魅力を生み出しているのでしょう。そこかしこで脱臼"してるかのような"Etude"や、叙情的な雰囲気のなか、今井氏が亡き父の詩の一節を朗読する"HANA"では、独特の雰囲気を形成しております。アルバムは本作のみというのが非常に惜しまれますが、今なお色褪せない響きでもって、聴き手に驚きと愉しみを感じさせてくれます。



 バンドの音楽性にも沿ったシュールレアリズムと幻想的な雰囲気を見事に伝えているアルバムのジャケットアートは、浅野淳氏の実弟 浅野信二氏によるもの。氏はその後、マーキー発行のプログレッシヴ・ロック情報誌「EURO-ROCK PRESS」の第一号から第二十号(1998年から2004年)までの表紙絵を手がけられてもおりました。定期的に企画展や個展なども催されているほか、近年では雑誌の挿絵や小説のカヴァーイラストなどで、氏の作品を目にする機会も多くなってきております。昨年新カヴァーで復刊されたマーヴィン・ピークの〈ゴーメンガースト〉三部作と、ついに刊行成った幻の最終巻『タイタス・アウェイクス』の一連のアートワークはまさに圧巻の一言でありました。

zypressen.jpg

 そして来たる4月24日に、なんとZYPRESSENが19年ぶりに再始動。バンドの公式サイトもつくられ、吉祥寺MANDA-LA2でライヴを行うというアナウンスがされました。これは観逃せないところでしょう。

http://zypressen.jp/


21世紀の京浜兄弟者 -History of K-HIN Bros. Co. 1982~1994-21世紀の京浜兄弟者 -History of K-HIN Bros. Co. 1982~1994-
(2015/03/18)
京浜兄弟社

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驚天動地の10枚組BOX。『誓い虚しく』に収録された"すべての縦縞は交差したがる"に、同コンピレーションのリリース直前、1991年8月に吉祥寺シルバーエレファントで行われたライヴで演奏された"すべての縦縞は交差したがる"、そして『Lost Years In Labyrinth』に収録されたヴァージョンの"Tangent"と、ツィプレッセンの楽曲が3曲収録されています。今井弘文氏のコメントも掲載。



2015年4月19日日曜日

BAROCK PROJECTが、ポール・ホワイトヘッド、ヴィットリオ・デ・スカルツィを迎えた新作の制作資金をkickstarterで募集中



 イタリアン・プログレッシヴ・ロック・バンド BAROCK PROJECTが、先ごろ二名の新メンバーの加入と、今後のリリースについてのアナウンスを行い、クラウドファウンディングサイト kickstarterでニューアルバムの制作資金の投資を呼びかけております。これまでのような既存のレーベルからのリリースではなく、バンド主導で、よりクオリティの高い作品制作を行いたいという新たな決意のもとに、今回のニューアルバム共同制作プロジェクトは立ち上がりました。「Skyline」と題された本プロジェクトの目標金額は$3000で、2015年5月9日までにファンドを達成すれば、五月末にアルバムがリリースされる運び。同作は、GENESISやVan Der Graaf Generator、Le Ormeのアルバムジャケットなどで知られるポール・ホワイトヘッドがアートワークを手がけ、NEW TROLLSのヴィットリオ・デ・スカルツィがゲストで参加するというアナウンスがされております。投資は$5から受け付けており、$5のプランではヴィットリオ・デ・スカルツィがフルートとヴォーカルで参加したタイトルトラックのダウンロードが可能となります。$15のプランではアルバム全曲のダウンロードが可能になるほか、バンドの写真とボーナストラック1曲がついてきます。$25のプランではサイン入りCDがリリース前に送られてきます。$40以上のプランの場合は、さらなる恩典があります。以下はアルバムの二曲目を飾る楽曲(4/29に公開されました)。クラシカルで華やかなキーボード・プログレッシヴ・サウンドが素晴らしいです。







 BAROCK PROJECTはコンポーザー/キーボーディストのルカ・ザッビーニを中心に2004年に結成されたバンドで、当初はEL&PやGENESIS、NEW TROLLSなどのカヴァー演奏も行っておりました。2007年にフランスの老舗プログレレーベルMUSEAよりアルバム『MisterioseVoci』でデビュー。その後、五人編成となり、2009年にイタリアのMELLOW RECORDSより2ndアルバム『Rebus』をリリース。しばらくのインターバルとメンバーチェンジを経て、2012年に三人編成で『Coffee In Neukölln』をリリースしております。バンド名が示すようなバロック様式の曲調はもちろん、70年代イタリアン・プログレや、ジャズのフレイバーを現代的なセンスでミックスしたサウンドは非常に洗練された仕上がり。コーラスやストリングスの華やかなアレンジも、変拍子を交えた複雑なアレンジも巧みにこなすフロントマンのルカ・ザッビーニのアレンジ・センスは一目置くべきものがあります。リリースを控えた4thアルバム『Skyline』は、リズム隊にMarco MazzuoccoloEric Ombelliという二名の新メンバーを加え、再び四人編成となっての作品となります。近年の若手イタリアン・プログレ勢でも非常に見所のあるバンドなので、ぜひ一口参加してみてはいかがでしょうか? 

『Coffee In Neukölln』のプレビュー音源


2007年に行われたコンサートのフルセット映像(約二時間)




http://www.barockproject.it/
https://www.facebook.com/barockproject

2015年4月18日土曜日

「ロックマンmeetsジャズ&プログレ」な、メキシコ製スパイアクションゲームサントラ 『Agent Awesome OST』(2015)



 悪の組織に立ち向かうエージェントとして十数のステージを攻略してゆく、メキシコの新興ゲーム開発集団「Chaos Industries」制作によるユーモラスなテイストの俯瞰型スパイアクション・ストラテジー・ゲーム「Agent Awesome」のサウンドトラック。ゲーム本編は今年の1月にsteamで配信され、サウンドトラックは2月にbandcampで配信されました。コメントによると“ファミコン版ロックマンシリーズのサントラを参照しつつ、ジャズとプログレッシヴ・ロックの要素をミックスして作り上げた”ということが書いてあるのですが、まさにそんな感じ。ピアノ・ジャズからシンセ・プログレ、そしてエレクトロ・チューンまで、スタイリッシュなサウンドが楽しめます。オススメは"Level 1" "Level 2" "Level 10" "He's Awesome"。"He's Awesome"は妖艶な女性ヴォーカルが歌い上げるトラックです。



 コンポーザーは同じくメキシコ出身のBrian CubríaLuis Alcácerのふたり。Luis Alcácerの詳しい経歴はわかりませんが、Brian Cubríaはこれ以前に、HyperBeard Games開発のiOS用アプリゲーム「Bouncing Dude」「Muertitos」のためにジャジーな楽曲を提供しているほか、bandcampでゲームミュージック・アレンジ・アルバムをリリースしており、そこでは「ファイナルファンタジー(VII~IX)」や「クロノトリガー」「ゼルダの伝説(「神々のトライフォース」「時のオカリナ」)」などの楽曲をジャジーなピアノアレンジで仕上げております。こちらもまたスタイリッシュな一枚です。彼のsoundcloudアカウントでは、ほかにも色々なアレンジ曲を聴くことも可能です。



Chaos Industries
Agent Awesome - steam
Brian Cubría - facebook
Brian Cubría - soundcloud
Brian Cubría - YouTube

Lu7 Live 『春だニコタマLu7』 @二子玉川「KIWA」 2015.04.18

 栗原務氏と梅垣ルナ氏を中心とするプログレッシヴ・フュージョン・バンド Lu7のライヴを観てきました。昨年11月に行われた、アルバム 『Azurite Dance』発売記念ライヴから約半年ぶり。これまでは一~二年に一度くらいのペースでライヴをされているので、今回はいつになく短いスパンでお目にかけることができたわけです。今回のライヴハウスは、二子玉川という土地柄もあってか、椅子・テーブル付きのだいぶゆったりしたスペースで、キャパは60~70人くらいのところでしょうか。ライヴの雰囲気も、前回よりゆったりしていました。MCもゆるゆるで(笑)。しかしながら演奏はやはり流石の内容で、今回も本編はプログレッシヴな長尺チューン"トキヲコエテソラニカエリ"で〆。前回の鬼気迫る初演奏のときより、いくらかこなれてきたという感じがありました。今回のMCでは楽曲についてのよもやま話もいくつか披露されておりました。"Bluetail of Passage"は鳥をイメージして、とか、"12th Tree"は、干支など「12」にちなんだ曲を何かということで出来た、とか。また、栗原務氏が語るところによると、"L'esprit de l'exil"の原型となったのは、かつてアラン・ホールズワースのプロデュースでYAMAHAから出たエフェクトボックス「UD-STOMP」のために、栗原氏が書かれた数曲のデモ曲のうちのひとつなんだそうな。そしてそして、次回ライヴは7月に神奈川方面で行われるというアナウンスがされました。いやはや、いつになく短めのインターバルですよ。

『春だニコタマLu7』
二子玉川「KIWA」 2015.04.18
http://lu7.biz/news/2015011921335026.html

〈演奏メンバー〉
栗原務(guitar)
梅垣ルナ(keyyboard)
岡田治郎(bass)
嶋村一徳(drums)

〈セットリスト〉
1.Bluetail of Passage
2.12th Tree
3.Azurite Dance
4.Mariana's Garden
5.L'esprit de l'exil
6.Ripple (Mizu no Wa)
7.Berceuse
8.絡みゆく蔓
9.Flying Seed (Landscape 37)
10.トキヲコエテソラニカエリ
Encore: ミドル・ロングサーキット(チョロQ2)


さらなる世界観の広がりを求めて邁進する、
プログレッシヴ・フュージョン ユニットの四作目 ― Lu7『Azurite Dance』(2014)

2015年4月14日火曜日

見岳章 『スパイラル 推理の絆  TVアニメーション サウンドトラック』(2003)

スパイラル~推理の絆~TVアニメーション サウンドトラックスパイラル~推理の絆~TVアニメーション サウンドトラック
(2003/03/19)
TVサントラ、Strawberry JAM 他

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 「スパイラル ―推理の絆―」は、かつて月刊少年ガンガンで連載された、城平京原作/水野英多作画によるミステリ&アクションスリラー漫画。アニメ版は2002年10月から2003年3月にかけて全25話が放送されました。本CDは同作のサウンドトラックであり、主題歌以外の全楽曲を、ニューウェイヴ・ロック・バンド 一風堂の元キーボーディストにして、美空ひばり("川の流れのように")、城之内早苗("あじさい花")をはじめ、稲垣潤一や小泉今日子、とんねるずなどへの楽曲提供者でもある見岳章氏が手がけられております。本作は、「華星夜曲」(1988)、「人造人間キカイダー THE ANIMATION」(2000)に次いで、氏が手がけられた現時点で最後のアニメ劇伴仕事になります。また、主題歌のStrawberry JAM、Hysteric Blueは今となっては懐かしい名前ですが、両バンドともに翌年に解散しているのですよね。

 主題歌の爽やかさに反して、本編はアーバン/ブラック・コンテンポラリーやアンビエントな要素もいくらか交えた、不穏なムードと無機質なビートを押し出したサスペンスフルなタッチの打ち込みスコアが中心。そのものズバリなタイトルの"ハート ウォーム"や、穏やかなワルツ調の小品である"トゥインクル マイハート"、ヒロインの結崎ひよの役をつとめた浅野真澄さんが歌った"トゥインクル マイハート(ヴォーカル・ヴァージョン)"などのほのぼのとした楽曲や、「小公女セーラ」や「戦え!超ロボット生命体トランスフォーマー」の主題歌でも知られるシンガーの下成佐登子さんがソプラノコーラスで参加された神秘的なアンビエント調のシンセスコア"呪われた烙印" "絶望"などもありますが、全体的にはやはり重苦しく、焦燥感を募らせるイメージのほうがはるかに強いです。



 これだけだといささかソツのない印象で終わってしまうところですが、一方で多分にエキセントリックなテイストが加わっているところが本作のミソなのであります。というのも、スタジオ・ミュージシャンであり、プログレッシヴ/フュージョン・バンド 「羅麗若」や、櫻井哲夫氏、神保彰氏が80年代末期に結成した「シャンバラ」などのギタリストとしてのキャリアを持つ古川望氏が一部の楽曲に参加されており、生粋のアラン・ホールズワース フォロワーでもある氏の技量を炸裂させたプレイが聴けるのです。四つ打ち/ブレイクビーツなシーケンスの上を“Holdzworty”なギターソロで縦横に駆け巡る"抹殺" "戦闘"や、約6分半という、スコアにしては破格の尺の長さを誇る"ラストゲーム"でのハード&ブルージーなプレイは痛快極まりない、まさにキラーチューンといえましょう。余談ですが、古川氏は見岳氏の劇伴作品にたびたび参加されており、TVドラマでは「ハッピーマニア」(1998)や「ケイゾク」(1999)、映画では「スシ王子!」(2008)のサントラなどでもクレジットされていることを付しておきます。



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『スパイラル ―推理の絆― TVアニメーション サウンドトラック』

01. 希望峰〔Strawberry JAM〕
(作詞:Strawberry JAM/作曲:あき/編曲:野村義男)

02. 論理の旋律は必ず真実を奏でる
03. 予兆
04. 推察
05. 不穏
06. 抹殺
07. 戦闘
08. 呪われた烙印
09. ブレード・チルドレン
10. トゥインクル マイハート
11. ひよひよ劇場
12. ハート ウォーム
13. 白い蝶
14. 呪縛
15. 螺旋
16. 黒い羽の天使
17. ハンター
18. 作戦
19. 悲愴
20. 絶望
21. ラストゲーム
22. 信じる力は運命さえ変えられる
23. 未来
24. カクテル〔Hysteric Blue〕
(作詞・作曲:たくや/編曲:佐久間正英&Hysteric Blue)

25. トゥインクル マイハート(ヴォーカルバージョン)
(作詞:北条千夏/作曲:見岳章/歌:浅野真澄)


[2003.05.19 | SVWC-1322]

Composed, Arranged & Produced & Mixed & Premastered by 見岳章

古川望(guitars)
下成佐登子(chorus)

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見岳 章 Mitake Akira - フジパシフィックミュージック

2015年4月12日日曜日

BIGLIETTO PER L'INFERNOのキーボーディスト、三十数年ぶりの新作 ― Baffo Banfi & Matteo Cantaluppi 『FrontEra』(2015)

FronteraFrontera
(2015/03/17)
Baffo Banfi

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 かつて70年代にイタリアで活動したヘヴィ・プログレッシヴ・ロック・バンド BIGLIETTO PER L'INFERNO。同バンドでキーボーディストだったジュゼッペ・バンフィ(Giuseppe Banfi)が、同国でプロデューサー/サウンド・エンジニアとして活動しているマッテオ・カンタルッピ(Matteo Cantaluppi)と組んで新たに結成したユニットが、先ごろデビューアルバムをリリースいたしました。それが今回ご紹介する『FrontEra』です。バンフィはBIGLIETTO PER L'INFERNO解散後、'78年から'81年にかけて三枚のシンセサイザー・ソロアルバムをリリースしているのですが、そのうち二作目、三作目のアルバムは、かのクラウス・シュルツェ主宰のレーベル「Innovative Communication」からのリリースであり、プロデュースもシュルツェ本人が手がけておりました。その後はアルバムのリリースが途絶え('88年に前述の三作からの楽曲をセレクトしたコンピレーションアルバムはリリースされています)ていただけに、今回の新作は実に三十数年ぶりとなるわけです。

 アルバムは全6曲。バンフィによるエレクトロニクスと、カンタルッピによる管弦アレンジを基調とした楽曲は、最長で9分、最短で5分というコンパクトなつくりで、ニューエイジ/ジャーマン・エレクトロの流れを汲んだ、伸び伸びと壮大な仕上がり。スペイシーではありますが、サイケデリックではなく、醒めた高揚感があるというのがミソでしょうか。往年のニューエイジ・サウンドといった懐かしさすら感じさせる"Kalu Pia"や、ストリングスアレンジも効いた"Front Era Valley"、太いシーケンスと堂々たるムードで貫かれた"Nuova Era"など、クラウス・シュルツェの諸作に通じるアンビエントな空気感はもちろん、TANGERINE DREAMのロマン性、そしてヴァンゲリス・パパサナシュー(「炎のランナー」「ブレードランナー」あたりの)やジョルジオ・モロダー、ジョン・カーペンターあたりにも通じるエッセンスを持っております。80年代のエレクトロ・ミュージック好きなら多分に琴線に触れるポイントの多い作品です。




なお、バンフィのsoundcloudアカウントでは、前述のソロ時代の楽曲もいくつかあがっております。こちらは'79年リリースの『Ma, Dolce Vita』より、アンビエントな長尺トラックです。




Baffo Banfi & Matteo Cantaluppi 『FrontEra』 - progstreaming
全曲ストリーミングで視聴可能(※期間限定)

Baffo Banfi - italianprog
Baffo Banfi - discogs

〈関連〉
PEAK『Ebondàzzar』(1980/1983)
同じく、Innovative Communicationからリリースされていたオーストラリアのユニットの電子プログレ作品。

2015年4月11日土曜日

英国音楽/VINYL JAPAN very proudly presents HAWKWIND来日公演 @下北沢GARDEN 2015.04.11

 HAWKWINDの“初来日”ライヴを観てきました。2011年に川崎クラブチッタで演る予定でしたが、震災で延期。果たして仕切り直しはいつになるのかしらんと思っておりましたが、今年ようやくそれが果たされたわけです。会場は下北沢GARDENに代わり、中止となった際の来日公演ではアナウンスされていたダンサーの帯同はありませんでしたが、いやいや、そんなことは微塵も気にならないくらいに最ッ高でしたね。そんなに大々的なプロモーションはされてませんでしたが、会場に入ってみればぎっしり満員で、みんなこの日を本当に待ってたんだろうなというところ。

 パフォーマンスですが、有無を言わさず最後まで気持ちよく、法悦でありました。というかどんどん気持ちよくなっていった感があります。背後に極彩色の映像を投影しながら、ライヴならではの引き延ばし反復スペースサイケデリア演奏で出音即涅槃コース余裕でした。 ティム・ブレイクのテルミンがね、ヴァリヴァリ効いておりました。開演は15分くらい押していたのだけど、終わってみればほぼ2時間。今日はアンコール含めても“Silver Machine”は演らなかったのだけど(※翌日の公演でやったようです)、個人的には本編ラストでキラーチューン(アサッシン的意味でも)の“Hassan-i-Sahba”を演ってくれたので満足です。




英国音楽/VINYL JAPAN very proudly presents
【HAWKWIND】 @下北沢GARDEN 2015.04.11(sun)

http://gar-den.in/?p=2972

〈演奏メンバー〉
Dave Brock (guitar, vocals, fx)
Mr.Dibs (vocals, bass)
Niall Hone (bass, fx, vocals)
Dead Fred Reeves (keyboard, vocals)
Tim Blake (theremin)
Richard Chadwick (drums, vocals)

〈セットリスト〉
1. Motorway City
2. The Hills Have Ears
3. We Took the Wrong Step Years Ago
4. Wow
5. Carbon Neutralized Poem
6. Seasons
7. Damnation Alley
8. Born To Go
9. The Age Of Micro Man (25 Years On)
10. He Ha!
11. Southern Cross
12. Shot Down in the Night
13. Hassan-i-Sahba
Encore: Spirit Of The Age

2015年4月9日木曜日

シネマティックなレアグルーヴ系プログレッシヴ・ロックを聴かせるイタリア異色の新鋭バンド ― LA BATTERIA『La Batteria』(2015)



 今なお新鋭バンドに事欠かない豊かさを誇るイタリアのプログレッシヴ・ロック・シーンですが、このLA BATTERIAはちょっと変わり種といえます。60~70年代の映画サウンドトラックを愛好する四人の士によって2012年ごろに結成されたラ・バッテリアは、エンニオ・モリコーネ、ステルヴィオ・チプリアーニ、ブルーノ・ニコライ、アレッサンドロ・アレッサンドローニといったコンポーザーや、イタリアン・ホラーとプログレッシヴ・ロックをつなぐ最重要バンドのGOBLIN、そしてライブラリー・ミュージック・バンドI MARC 4などからの影響をダイレクトに反映させたサウンドを標榜しています。サウンドトラックからの強い影響下にあるプログレ・バンドでは、ANEKDOTENやLANDBERKのメンバーを中心に結成されたスウェーデンのMORTE MACABREや、GUAPOやANGEL WITCHのメンバーからなるイギリスのZOLTANがおりますが、両バンドともカルト・ホラー寄りの作風であることを考えると、マカロニ・ウエスタンやスパイ・アクションもののムードを湛えるラ・バッテリアはだいぶ毛色の異なる手合いです。作風が作風ゆえに、マンドリンやクラシック・ギターも操るEmanuele Bultriniと、ハモンドC3やクラヴィネット、フェンダー・ローズを筆頭に各種鍵盤楽器を駆使するStefano Vicarelliのふたりの演奏は、往年のテイストを“再現”する上でたいへん重要なファクターとなっております。



 ワウをかませたカッティング・ギターがチャカチャカと軽快に刻み、ファズったベースがジワりと染みこむ"Vigilante"や、スモーキーなオルガン・サウンドが転がる"Schenario"。『荒野の用心棒』などのテーマ曲で印象的な口笛を残してきたアレッサンドロ・アレッサンドローニへのリスペクトをうかがわせる口笛フレーズで幕を開け、女性スキャットが哀切の花を添える"Manifesto"。オルガンとチェンバロの響きが枯れた味わいをいっそう引き立たせる"Persona Non Grata"、かと思えばいなたく疾走するオルガン・ハードロックを聴かせる"Zero"など、楽曲はサイケデリック・ロック、クラシカル、アフロ・ファンク、イタロディスコのテイストも滲ませる一方で、ときにポール・モーリアやヘンリー・マンシーニ、果てはジョン・カーペンターへのオマージュも仕込んでいるのではとも思ってしまう、懐の広さも感じさせるフレキシブルなサウンドがたまりません。マニアックなプログレ・リスナー向けなのはもちろんなのですが、それ以上ににマカロニ・ウエスタンやスパイ・アクション映画好き、モンド/レア・グルーヴ好きに十二分にアピールしたい魅力のあるバンドです。このデビューアルバムでゴキゲンなひとときを過ごしてみてはいかがでしょうか。



http://www.labatteriaband.it/
https://www.facebook.com/labatteriaroma

2015年4月7日火曜日

フィリップ・K・ディック『ヴァリス』をオペラで再現した、異色の電子プログレ作品 ― Tod Machover『VALIS, an opera』(1988)

ヴァリス (創元推理文庫)ヴァリス (創元推理文庫)
(1990/06)
フィリップ・K・ディック

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ヴァリス〔新訳版〕 (ハヤカワ文庫SF)ヴァリス〔新訳版〕 (ハヤカワ文庫SF)
(2014/05/09)
フィリップ・K・ディック

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 フィリップ・K・ディックが1981年に著した『ヴァリス』は、ディックが自らのドラッグ、神秘体験に神学、グノーシス主義を投入して作り上げた最晩年の問題作であり、『聖なる侵入』『ティモシー・アーチャーの転生』と併せた三部作として今な読み手の前に立ちふさがる、過剰なまでの情報量を孕んだ一大思索作品群です。ものすごく端折って説明するなら、『ヴァリス』は、主人公ホースラヴァー・ファットが“ピンク色の光線”を浴び、そして神学談義を展開してゆく話です。ディックは三部作を著してまもなく亡くなりますが、その五年後の1987年に、本作を丸ごとコンセプトとしたオペラ作品がひとりの作曲家によって作り上げられることになります。彼の名はトッド・マコーヴァー。70年代末から80年代中期にかけてパリのICRAM(ピエール・ブーレーズが創立したフランス国立音響音楽研究所)に在籍。その後、マサチューセッツ工科大学メディアラボ教授として、現在もオペラの作曲や研究活動を続けております。ヨーヨー・マやプリンス、ピーター・ゲイブリエルなどが使用したこともあるという特殊楽器「ハイパーインストゥルメント」や、作曲ソフトウェア「ハイパースコア」、そして「ブレイン・オペラ」なる作曲パフォーマンスなどの考案者としても知られており、インタラクティヴな音楽へのアプローチというものに非常な関心を持ち続けているのが、マコーヴァー氏なのであります。

ValisValis
(1993/09/11)
Tod Machover

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https://itunes.apple.com/jp/album/valis-opera-on-novel-by-philip/id455427227

 パリのジョルジュ・ポンピドゥ・センターの十周年記念式典の一環として依頼を受け、制作された「オペラ:ヴァリス」は1987年に同センターで初演され、その後アメリカ公演などを経て、1990年ごろには日本でも上演されたそうです。CDは、1988年にニューヨークのブリッジ・レコーズからリリースされ、パッケージには64ページにおよぶ詳細なブックレットが付属しています。オペラは二部構成に分かれており、トータル77分半。楽曲は、ホースラヴァー・ファット/フィリップ・K・ディック役やグロリア役、リンダ・ランプトン役など数名の演者が織り成すナレーション/ヴォーカル/コーラスを主体に、キーボーディスト、パーカッショニストの二名の演奏、そして電子音を散りばめた仕上がり。ステージには意匠が凝らされ、設置された数十ものモニターからは映像が流されていたとのことですが、なにぶんCDではそういった視覚的情報はないので、音のみを聴くとなるとどうしても物足りない印象を感じる部分もあるのですが、それでも途中で繰り出される高速言語めいたモノローグや、不協和音が織り成す一種独特のテンションがただならぬものを演出しているということはいやというほどわかります。前半はサウンド面での動きは少ないのですが、後半に入ると異様なテンションの高さに拍車がかかり、強迫的なヴォーカルと不協和音の絡みがさながら電子プログレというか、チェンバー・ロックに近い様相を成しはじめてきます。パート1の最終楽章"Finale I"や、パート2の"Valis Song" "Lampton Scene"などでは、MAGMAもかくやというテンションの高いコーラスの絡みが聴けますし、パート2終盤部、アンネ・アゼマの神秘的ソプラノをフィーチャーした"Sophia's Aria"から、コーラスハーモニーが電子音とともに10分半に及ぶ内面宇宙のカオスを描き出す"Finale II"にかけての一連の流れは、ハイライトとも呼べる圧巻のパフォーマンスが繰り広げられております。


第二部冒頭曲"Valis Song"。これを聴いた時はぶったまげました。




MIT Media Lab Tod Machover

「PKDSニュース欄からの抜粋(ヴァリス・オペラ関連記事)(翻訳記事)」
「PKDSが受け取ったプレスリリースからの抜粋(翻訳記事)」
「ヴァリス・ジ・オペラ(翻訳記事)」
(from うそつきりっちゃんの掌篇集)
Valis the Opera - deoxy.org
Interview with Tod Machover - Philip K. Dick Fan Site
トッド・マコーバー + ダン・エルシー: 新しい音楽の可能性を開く楽器を作る
- Talk Subtitles and Transcript | TED.com

Interview with Tod Machover - SCIENTIFIC AMERICAN
Tod Machover Valis - Bridge Records inc

2015年4月5日日曜日

TOTO、CHICAGOのメンバーらが参加した、良質なAORアルバム ― 『サイレントメビウス O.S.T Vol.2 “MELODY”』(1998)

サイレントメビウス ― オリジナル・サウンドトラック vol.2 MELODYサイレントメビウス ― オリジナル・サウンドトラック vol.2 MELODY
(2001/01/24)
TVサントラ、Warren Weibe 他

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 現在もシリーズが継続中の、麻宮騎亜原作のサイバーパンクコミック「サイレントメビウス」。テレビアニメは1998年4月から9月にかけて放送され、同作のサウンドトラックは三枚リリースされました。そのVol.2にあたるものが、本CDです。本編の主題歌を核としたヴォーカル・アルバムなのですが、マイケル・ランドウ(g)やラリー・ウィリアムズ(sax)などのアメリカのスタジオ・ミュージシャンや、CHICAGOのジェイソン・シェフ、TOTOのジョセフ・ウィリアムズといったAOR系シンガーを迎えた、かなり気合の入ったつくりになっています(そういうわけで、レコーディングは日本とアメリカの二カ国で進められております)。主題歌以外の楽曲は本作のために書き下ろされたオリジナル曲というところもポイントです。さらに帯には「AORの新しい風を吹き込むベスト・ボーカル・セレクション」という惹句があるところからしても、本作が目指したところは明白でありましょう。



 自らヴォーカルをとる"Gone"をはじめ、作編曲や演奏などでクレジットされているトム・キーンは、かつて兄弟ユニットのKEANE BROTHERS、そして「TOTOの弟分」として日本に紹介されたAORバンド KEANEのフロントマンを務めた人物。その後、大御所デヴィッド・フォスターに師事し、CHICAGOやチャカ・カーン、セリーヌ・ディオンなどのコンポーザー/アレンジャーとして活動し、グラミー賞やゴールデングローブ賞にノミネートされた経歴を持つ、本国では大物のひとりです。また、彼は'90年代には「超者ライディーン」の「機動新世紀ガンダムX」などの劇伴や主題歌などに携わっておりました(このあたりは、機会を改めて紹介したいと思います)。また、"Till the End of Time" "Love Can Never Be Erased"などの作編曲や演奏に関与しているブレット・レイモンドは、ジェイ・グレイドンや本田恭章や企業CMなどに楽曲を提供し、自身もソロアルバムを発表しているコンポーザー/シンガーです。



 "Can We Bring the Love in"を歌うウォーレン・ウィービーは、バート・バカラックとデヴィッド・フォスターに見出された実力派セッション・シンガー。'96年に放映された機動新世紀ガンダムXのエンディングテーマ"Human Touch"(作編曲:トム・キーン)でヴォーカルもとっていました。残念ながら、彼は精神疾患との闘病のすえ、本CDのリリースから数ヶ月後にこの世を去ってしまうのですが、ここでも、熱のこもった優しいヴォーカルを聴かせてくれます。セカンド・エンディングテーマである"Till the End of Time"は、CHICAGOのジェイソン・シェフと、現在はジャズ・シンガーとして活動されている奥土居美香さんのデュエットによるバラード曲。極上の絡みを聴くことができます。ちなみに、前述の"Human Touch"の日本語ヴァージョンを歌った“re-kiss”とは、奥土居さんのことです。ジェイソンがヴォーカルをとり、共同作曲者としても関与している"You Paint the Sky"は、CHICAGOよろしくホーンをフィーチャーしたAORナンバー。ジェリー・ヘイ、ラリー・ウィリアムズ、ゲイリー・グラント、ビル・ライヒェンバッハらSEAWIND組のホーンセクションがよい仕事をしています。"With Everything I Am"は実質的にジョセフ・ウィリアムスによる書き下ろし曲であり、ヴォーカルも演奏もすべて彼がひとりでこなしています。曲調としては、かなり『Fahrenheit』の頃のTOTOのアダルト・コンテンポラリーな感じが出ております。



 "Card Shark"はバリバリのハード・ロック・チューンで、本CDでも異色の一曲ですが、それもそのはず、作編曲と演奏すべてを手がけたマーク・フェラーリは、元STEELER(イングヴェイ・マルムスティーンもかつて在籍)のロン・キールが立ち上げたヘヴィ・メタル・バンド KEELのギタリストです。フェリシア・ソレンソンが歌う"Love Can Never be Erased"カレン・モク〔莫文蔚〕が歌うファースト・エンディングテーマ"Silently"は、それぞれ、エンヤのようなニューエイジ・ポップス、ゆったりとしたエイジアン・ポップスに仕上がっています。"禁断のパンセ""A Forbiddan Pansee"として英詞ヴァージョンで再録。オリジナル版の石塚早織さんに代わって、ここではテリー・ウッドなる女性シンガーが歌っております。編曲者はオリジナル版と同様に須藤賢一氏ですが、こちらはテンポ速め。アレンジはシンプルになった…というよりは、打ち込み感が強くて、なんだかデモ・トラックを使ったような印象がします。

 本当に、どっぷりとAORなつくりのアルバムです。アニメの視聴層にどれだけアピールしたのかはわかりませんが、こういう音楽面での力の入れ方はプロデュースを手がけた井上俊次氏らしいなというか、後のランティスの片鱗がうかがえます(当時は株式会社エアーズ)。なお、本アルバムは2001年にメルダックから再発盤がリリースされております。

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『Silent Mobius Original Soundtrack Vol.2:
International Vocals Version "MELODY"』


[1998.07.21/エアーズ AYCM-612]
[2001.01.24/メルダック MECB-28114(再発盤)]

Original Works by 麻宮騎亜
Produced and Directed by 井上俊次
U.S.Production Co-Produced, Recorded and Mixed by KAZ

01. Can We Bring the Love in(ヴォーカル: Warren Wiebe

作詞: Isabella Dante
作編曲: 須藤賢一
ホーンアレンジ: Jerry Hey
バッキングヴォーカルアレンジ: Tom Keane

須藤賢一 (keyboards)
Michael Landau (guitars)
Tom Keane (background vocals)
Jerry Hey, Gary Grant (Trumpets)
Bill Reichenbach (tromones)
Larry Williams (saxophones)
栗山善親 (synthesizer programming)


02. You Paint the Sky(ヴォーカル: Jason Scheff

作詞: Isabella Dante
作曲: Tom Keane, Jason Scheff
編曲: Tom Keane

Tom Keane (keyboards, synthesizer programming)
Jason Scheff (bass, background vocals)
Michael Landau (guitars)
Jerry Hey, Gary Grant (Trumpets)
Bill Reichenbach (trombones)
Larry Williams (saxophones)


03. With Everything I Am (ヴォーカル: Joseph Williams)

作詞: Amy Williams
作編曲: Joseph Williams

Joseph Williams (backing vocals, keyboards)



04. Card Shark(演奏: Marc Ferrari

作詞・作編曲: Marc Ferrari

05. Love Can Never Be Erased(ヴォーカル: Felicia Sorenson)

作詞: Isabella Dante
作編曲: Brett Raymond


06. Gone(ヴォーカル: Tom Keane

作詞: Isabella Dante
作編曲: Tom Keane


07. A Forbidden Pansee(ヴォーカル: Terry Wood

作詞: 田久保真見
英詞: Justin Mossimo
作曲: 井上大輔
編曲: 須藤賢一


08. Till the End of Time(ヴォーカル: Jason Scheff & 奥土居美香

作詞: Isabella Dante
作曲: Brett Raymond
編曲: Tom Keane

Tom Keane (keyboards, backing vocala, synthesizer programming)
Michael Landau (guitars)
Jason Scheff (backing vocals)


09. Silently(ヴォーカル: Karen Mok

作曲: BEGIN
編曲: 白井良明
バッキングヴォーカルアレンジ: 井上俊次

白井良明 (guitars)
Takazumi Kunimoto (synthesizer programming)
BEGIN (backing vocals)


10. Love Can Never Be Erased Reprise(演奏: Brett Raymond

作編曲: Brett Raymond


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Tom Keane - jvcmusic
Brett Raymond - jvcmusic