2015年3月30日月曜日

現在進行形のパフォーマンスで、AOR/プログレッシヴ・ハード・ロックの矜持も改めて示した入魂の傑作 ― TOTO『TOTO XIV』(2015)

TOTO XIV~聖剣の絆 [Blu-spec CD2]TOTO XIV~聖剣の絆 [Blu-spec CD2]
(2015/03/18)
TOTO

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 アメリカが誇るAOR/メロディック・ロックの最高峰 TOTOの、『Falling in Between』(2006)以来、9年ぶりとなる新作アルバム。スタジオ・アルバムとしては通産十二作目となるのですが、タイトルに掲げられた「XIV」は、アウトテイクやライヴ・トラックなどの未発表曲を収録した『TOTO XX』(1998)、カヴァー・アルバム『Through the Looking Glass』(2002)も勘定に入れた上での十四作目ということになるようです。邦題にも「聖剣の絆」とありますが、思えばここ数年のバンドの活動はまさに絆の強さを再確認させてくれるものがありました。『Falling in Between』リリース後、ベーシストのマイク・ポーカロが筋萎縮性側索硬化症(ALS)との闘病のためツアーを離脱し、それに伴って2008年7月にバンドは解散宣言をしますが、デヴィッド・ペイチの呼びかけで始まった2010年7月からのマイクのベネフィットのための期間限定再結成ツアーを経て再始動。2013年の35周年記念ツアーにおけるポーランド公演をシューティングしたライヴDVDもリリースされたほか、2011年と2014年には来日ツアーも行っております。再結成ツアーからは、『Fahrenheit』(1986)、『Seventh One』(1988)でメイン・ヴォーカリストを務めたジョセフ・ウィリアムズが正式メンバーとして復帰し、2014年には自身の活動をメインとしていくため脱退したサイモン・フィリップスに代わって、Steely DanやSTING、ジョン・メイヤーなどでプレイしていた実力派セッション・ドラマーのキース・カーロックが加入。さらに同年の夏のツアーからは、オリジナル・メンバーであるデヴィッド・ハンゲイトが、『TOTO IV』(1982)以来32年ぶりに復帰するという大きなトピックもありました。それぞれ十数年の歳月を経てのジョセフとデヴィッドの再合流もふくめ、感慨深いものがあります。


 
 レコーディングには十分な時間と相当の気合を入れて臨んだとのことで、スティーヴ・ルカサー「『TOTO IV』に続く『TOTO V』のつもりで制作した」というコメントもしております。そしてその言葉に違わぬ、傑作アルバムに本作は仕上がりました。アルバムジャケットに久々に掲げられた「剣」のシンボルからも、並々ならぬ想いがうかがえるというもの。プロデュースにはバンドメンバーのほか、ルカサーの近年のソロアルバムでも作編曲や演奏などで腕を振るうCJ ヴァンストンを迎えるなど、気心の知れた人選がなされております。参加ミュージシャンには、リーランド・スカラー(b)、レニー・カストロ(perc)、トム・スコット(sax)などお馴染みの面々。また、タル・ウィルケンフェルド(b)、ティム・ルフェーヴル(b)の二名は、キース・カーロックのセッション人脈からの参加であることを付しておきます。

 ジョゼフの存在もあって、『Seventh One』のころの空気を少しばかり感じますが、アルバムに詰めこまれているのは、正しく現在進行形のバンドとしてのパフォーマンス。ジョセフのヴォーカルも依然としてフレッシュな魅力を保っているのもたまらないものがあります。前作がファンキーなグルーヴとハードエッジな曲が揃ったロック作品だったことを考えると、バラエティに富んだ曲調と、コンパクトでありながら効果的なアレンジの妙味を効かせた本作は、王道のAORのスタイルを改めて提示した感があります。アルバムは、エッジの効いたイントロと歯切れのよいカッティングギターが冴え渡るプログレッシヴ・ハード・チューン"Running Out Of Time"で幕開け、続いてダイナミックなビートと雄大なヴォーカル/コーラスで魅せる"Burn"へ。ルカサーとヴァンストンの共作による"21st Century Blues"は、そのままルカサーののソロの延長のようなブルージーな仕上がり。ともに先行公開されていた"Holy War" "Orphan"の二曲は、本作における象徴的楽曲。ヴォーカルとコーラスがハードエッジな曲調を相乗的に高めていく、この安心感がもたらすカタルシスがTOTOのひとつの魅力なのですよね。"Unknown Soldiers(For Jeffrey)"のジェフリーとはもちろんジェフ・ポーカロのことで、万感の思いを込めて亡き彼の想いに捧げられた珠玉のパワーバラードです。"Chinatown" "All The Tears That Shine"、そして日本盤ボーナストラック"Bend"の三曲に共同作曲者としてクレジットされているマイク・シャーウッドは、かつてデヴィッド・ペイチとスティーヴ・ポーカロがプロデュースを手がけたプログレッシヴ・ロック・バンド LODGICのフロントマンです(ちなみに、同じくLODGICのメンバーであり、元YES、現CIRCAのビリー・シャーウッドは、彼の弟にあたります)。それだけに、ウェットな質感といいダイナミズムといい、実に「わかっている」楽曲だなという印象を感じました。ラストの"Great Expectations"は、TOTOのプログレッシヴな側面を追求した楽曲。尺も6分53秒と本作最長です。前作の"Hooked"などでもバリバリのプログレッシヴ・ハード・ロックを聴かせてくれましたが、この曲はいつになくドラマティックな構成に重点を置いた仕上がりになっています。意外な収穫でした。

 2015年3月15日、本作がリリースされる数日前に、マイク・ポーカロが長年の闘病の末この世を去りました。復帰を切望していた彼の無念を思うとやりきれないものがありますが、本作を聴くことでも改めて哀悼の意を表したいです。



http://totoofficial.com/

The making of the new Toto XIV album - Steve Lukather.com
【インタビュー】スティーヴ・ルカサー「TOTOでプレイするのは喜び」- barks.jp
WORLD PREMIERE:“HOLY WAR”“ORPHAN”【TOTO】 - Marunouchi Muzik Magazine
スティーヴ・ルカサーが語るTOTO 9年ぶり新アルバム制作秘話 新しい歴史の幕開け - ZAKZAK

2015年3月28日土曜日

西木栄二/森村あゆみ『そして、星へ行く船/逆恨みのネメシス イメージアルバム』(1987)

星へ行く船―ロマンチックSF (集英社文庫―コバルトシリーズ 75B)星へ行く船―ロマンチックSF (集英社文庫―コバルトシリーズ 75B)
(1981/01)
新井 素子

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 新井素子さんの〈星へ行く船〉シリーズは、'81年から'87年にかけて集英社のコバルト文庫より刊行された作品。家を飛び出し、宇宙へと飛び出したヒロイン 森村あゆみが遭遇する数々のドタバタと葛藤を描いたSFロマン小説で、シリーズは『星へ行く船』『通りすがりのレイディ』『カレンダー・ガール』『逆恨みのネメシス』『そして、星へ行く船』の全五巻。その後、92年に番外編『星から来た船』(上・中・下)が刊行され、'94年に番外短編「αだより」が書かれています。ラジオドラマ化や漫画化などのメディアミックスにも恵まれ、音楽化では日本コロムビアのコミックス・イメージアルバム企画〈ロマン・トリップ〉シリーズのカタログとして、'83年から'87年にかけて原作タイトルに準拠した四枚のアルバムがリリース。また、'91年3月に同じくコロムビアの〈イメージ・トリップ〉シリーズとして3in2でCD再発もしているのですが、収録時間的な事情ゆえか『通りすがりのレイディ』のみ未収録。そちらは同年6月に単体でCDリリースされているようです。


そして、星へ行く船/逆恨みのネメシスそして、星へ行く船/逆恨みのネメシス
(1987/12/21)
イメ―ジ・アルバム

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 本CDは'87年の年末にリリースされた、『逆恨みのネメシス』('86)、『そして、星へ行く船』('87)の二作品のイメージアルバム。これ一枚にまとめられているのは、原作の二作が連続性の強いものであったことに準拠してのことでしょう。作編曲を手がける西木栄二氏は、70年代にフォーク・グループ「猫」にごく短期間だけ在籍後、小室等&ザ・ファクトリーや、シティ・ポップ・バンド カーニバルのメンバーとして活動歴のあるギタリスト。80年代は作編曲家として本田美奈子や酒井法子、伊藤さやかなど数々のアーティストに楽曲提供をされております。「アニメ三銃士」のオープニングテーマである"夢冒険"や、「トップをねらえ!」のオープニング/エンディングテーマである"アクティブ・ハート" "トライ Again...!"も彼による仕事です。また、本作の演奏を担当するアストライアは、西木氏が主導するバンド、というよりは、おそらくプロジェクト的なものなのでしょう。ライナーノーツでは「坂本君」というキーボーディストが新人で入ったといったようなことが書かれていますが、「坂本君」とは誰なのか、踏み込んだ詳細は一切不明です。





 シリーズ通してイージーリスニング系のインストゥルメンタルとアイドル/テクノ歌謡調の楽曲で構成されており、当時としてもやや古めかしさを感じさせる内容になっているのは否めませんが、"数えきれないPlease"では「こういう感じの曲は和製ポップスというジャンルに入れられて、レコード屋さんの店先に並べられていた時代があったのです」と西木氏みずからコメントしていたり、ビートロック/ブギー調の"パニックビート""憎みきれないお人良し"のような楽曲があったりと、そのあたりはだいぶ意識してやっているフシはあります。それがまた妙な魅力でもあるのです。明らかにQUEENの"フラッシュのテーマ"を意識したイントロで幕開けするハードなテクノ歌謡チューン"Believe"や、シンプルなアレンジで魅せる"Flower - 愛の花束"は佳曲ですし、"空の下は Lonely"は、ニューエイジというかメディテーショナル・ミュージックに寄った感のある仕上がりで、「長尺になりそうだったけど、なんとか五分くらいで収めた(大意)」といったことを述べているあたり、西木氏の地が出た感もある異色の楽曲となっています。全体的には爽やかなタッチでまとめられており、ラストは明快なハード・ポップ・チューン"そして明日へ…"で飾っています。




 その後、西木栄二氏は'93年にビクターよりソロアルバム『デカダンス』をリリースされていることを付しておきます。また、〈星へ行く船〉シリーズの全五巻は、数年前より出版芸術社から書き下ろしを加えて復刊するとアナウンスされておりますが、刊行スケジュールは現在も未定の状態です。諸々の作業は進行しているようなので、気長に待つのがよさそうです。

【2016.9 追記】
ついに刊行が決定いたしました。2016年9月中旬に『星へ行く船』『通りすがりのレイディ』が刊行され、以下続刊とのこと。

星へ行く船シリーズ 全5巻 発売決定! - 出版芸術社
http://www.spng.jp/news/n15960.html


星へ行く船シリーズ1星へ行く船
新井素子
出版芸術社 (2016-09-16)
売り上げランキング: 831


星へ行く船シリーズ2通りすがりのレイディ
新井素子
出版芸術社 (2016-09-16)
売り上げランキング: 944



新井素子研究会 - MOTOKEN
作品データベースなど、参考させていただきました。

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『ロマントリップ そして、星へ行く船/逆恨みのネメシス』

01. Believe
02. 飛んでも Honey Star
03. 数えきれない Please
04. パニックビート
05. Flower~愛の花束
06. 憎みきれないお人良し
07. 君は Sold out
08. 空の下は lonely
09. 宇宙一の Luckey Girl
10. そして明日へ…


[1987.12.21/CX-7312(LP)|CAY-847(カセット)|32CC-2075(CD)]

原作/新井素子
ジャケット・イラスト/竹宮恵子

作詩/佐藤ありす
作・編曲/西木栄二
歌/西木栄二(①⑦⑨)、森村あゆみ(③⑤⑨⑩)
演奏/アストライア

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 余談になりますが、本イメージアルバムのシリーズを通してヴォーカル曲にクレジットされている「森村あゆみ」は原作小説のヒロインと同姓同名であり、覆面シンガーなのはまず間違いありません。「中の人」の正体はわかっておりませんが、実はこの名義で「ルパン三世PARTIII」('84~'85)のエンディングテーマ"フェアリー・ナイト"をカヴァーした音源があります。同音源は、当時コロムビアから出ていたテーマ曲集『ルパン三世 パーフェクト・コレクション』('94年にCD化)に、ソニア・ローザの歌唱によるオリジナル版に替わって収録されています。なぜヴォーカル差し替え版が収録されていたのかというと、ルパン三世の楽曲著作権がバップに移ったばかりであったことと、当時はレコード会社間の権利関係の処理が難しかったなどの事情があったためです。いわゆる「パチソン」ですが、パチソンはパチソンでも公式に近いところにあったパチソンだったというわけです。




パーフェクト・コレクションパーフェクト・コレクション
(1994/11/21)
TVサントラ

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【関連】
佐久間正英『あなたにここにいてほしい/新井素子 イメージアルバム』(1985)

2015年3月23日月曜日

『ゲームウォーズ 〔Ready Player One〕』 非公式サウンドトラック (音楽ネタ一覧)

ゲームウォーズ(上) (SB文庫)ゲームウォーズ(上) (SB文庫)
(2014/05/19)
アーネスト・クライン

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ゲームウォーズ(下) (SB文庫)ゲームウォーズ(下) (SB文庫)
(2014/05/19)
アーネスト・クライン

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“音楽? 音楽は手強い相手だったよ。少しばかり時間がかかった。八〇年代は期間としては長い(まる十年だからね)。しかもハリデーは鑑識眼があるとはお世辞にも言えない人で、あらゆるジャンルを聴きまくっていた。だから、ぼくもあらゆるジャンルを聴いた。ポップス、ロック、ニューウェーブ、パンク、ヘヴィメタル、ポリス、ジャーニー、R.E.M.からザ・クラッシュまで。何だって聴いたよ。ゼイ・マイト・ビー・ジャイアンツの全レコードを二週間かからずに聴いた。ディーヴォにはもう少し手こずらされた。”(『ゲームウォーズ(上)』P127)


80年代ポップカルチャーにまみれた、容量過多のエンタメオタク小説。
― アーネスト・クライン『ゲームウォーズ』(SB文庫 ‐ 2014)

http://camelletgo.blogspot.com/2014/12/game-wars.html

数ヶ月前に書いたエントリ↑からの続き。アーネスト・クラインのギークな特盛りエンターテインメント・ノヴェル『ゲームウォーズ』に登場するロック/ポップ・ミュージックについてまとめてみました。……とはいったものの、実はアーネスト氏は自身のブログで本作の元ネタをすべて明かしています。楽曲は本編に登場した順番でリストになっており、かつ楽曲ひとつひとつにYouTubeリンクまで貼ってあるほか、全てをまとめたミックステープ、三曲のボーナス・トラック(!?)まで記載されているという至れり尽くせりぶり。となると、今さら自分が各楽曲の軽いインフォメーションなどをアレコレと付記するというのは屋上屋を重ねてしまう感が否めませんが、お付き合いいただければこれ幸い。多少なりともネタバレを含むので、本編を読んでいない人はご注意を。



The “Official” Ready Player One Soundtrack Mix Tape
http://www.ernestcline.com/blog/2011/09/21/the-official-ready-player-one-soundtrack/
アーネスト・クライン氏のブログにおける「ゲームウォーズ」サウンドトラックまとめ。「ファミリータイズ」「スクールハウスロック」や「モンティ・パイソン・アンド・ホーリー・グレイル」など、本編に登場する番組や映画のテーマも含めて網羅されています。

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“オインゴ・ボインゴ『デッド・マンズ・パーティ』という古い歌のイントロだ”
(上巻P8)
■Oingo Boingo - "Dead Man's Party"(1985)
Dead Man's PartyDead Man's Party
(1990/10/25)
Oingo Boingo

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現在はティム・バートン監督作品などでお馴染みの映画音楽家として活躍中のダニー・エルフマンがかつて率いていたバンドがオインゴ・ボインゴ。スカとニューウェイヴのエッセンスを取り込んだロック/ポップスサウンドを得意とするバンドで、"Dead Man's Party"は1985年のアルバム『Dead Man's Party』のタイトルチューンです。ちなみに、同アルバム収録の"No One Lives Forever"は、上遠野浩平氏の『ブギーポップは笑わない』の第三話のサブタイトル「世に永遠に生くる者なし」の元ネタにもなっております



“ハリデーも踊っている。現実の世界では見せたことのない姿だ。たがのはずれたような笑みを顔に張りつけ、猛スピードで回転し、音楽に合わせて腕と頭を振り回しながら、八〇年代を象徴するダンスの動きを完璧にこなしていく。ただし、ハリデーにダンスのパートナーはいない。文字どおり、一人でくるくる空回りしているだけだ。” (上巻P8)

■Billy Idol - "Dancing with Myself"(1980~1982)
Billy IdolBilly Idol
(2002/01/28)
Billy Idol

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楽曲やアーティスト名が本直接挙げられているというわけではないので、どこの箇所なのかしばらく悩みました。これは原文を見ないとわからないネタです。原文では"He is, as the saying goes, dancing with himself"という一節があります。"Dancing with Myself"は、ビリー・アイドルが在籍したパンク・バンドのGENERATION Xが活動末期の1980年にリリースした楽曲(ビリーと、同じくフロントマンだったトニー・ジェームズの共作)。その後1981年にバンドは解散、ビリーはアメリカに渡りソロデビューするのですが、その際に再度この曲をカヴァーしてシングルとしてリリースし、ヒットを記録します。同曲は1982年リリースの1stソロアルバム『Billy Idol』にも収録。



“(ちょうどいまはデュランデュランの『ザ・ワイルド・ボーイズ』を大音量で流している)” (上巻P76)

■Duran Duran - "The Wild Boys"(1984)
ArenaArena
(2004/04/12)
Duran Duran

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ニューウェイヴ/ニューロマンティックを代表するバンド デュラン・デュランが1984年にリリースした大ヒットシングル。同年にリリースされたライヴアルバム『Arena』に、唯一のスタジオ・トラックとして収録されています。



“「『レディホーク』は八〇年代の傑作の一つだ”
“―それにあのサントラ。駄作もいいところだろう。シンセの音以外に何か聞こえるか、え? アラン・パーソンズ・プロジェクトだ? 超のつく駄作だよ!―”
 (上巻P83)

■Andrew Powell - 『Ladyhawkw Original Soundtrack』(1985) 
レディホークレディホーク
(2014/07/09)
アンドリュー・パウエル

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「レディホーク」をこき下ろされて主人公がキレるくだりがあります。同作のサウンドトラックを手がけたのは、ケイト・ブッシュのアルバム『嵐が丘』のプロデュースや、アラン・パーソンズ・プロジェクトでオーケストレーションを担当していたアンドリュー・パウエル。彼の数少ない劇伴仕事の一つです(厳密に言うと、本作と1988年の「Rocket Gibraltar」のふたつしかありません)。アラン・パーソンズ・プロジェクトの流れを汲んだコンパクトでポップなスコアは映画の内容にあまりにもそぐわなかったという評価をされていますが、クオリティは間違いなく高いです。



“ミッドナイト・オイル『ベッズ・アー・バーニング』(1987)” (上巻P128)

■Midnight Oil - "Beds are Burning"(1987)
Diesel & DustDiesel & Dust
(1988/01/26)
Midnight Oil

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ミッドナイト・オイルは1976年に結成されたオーストラリア・シドニーのロック/ポップス・バンド。2002年に解散していますが、2005年と2009年に再結成をしてライヴを行っておりました。リード・ヴォーカルのピーター・ギャレットは、現在は本国の官公庁で環境大臣のポジションに就いております。"Beds are Burning"は世界的なヒットも記録したバンドの代表曲で、アルバム『Diesel and Dust』にオープニング・トラックとしても収録されています。


“ジョン・ウィリアムズ作曲の『スター・ウォーズ』のオリジナルサントラ最後の曲” (上巻P168)

■John Willams"The Throne Room and End Title"(1977)
Star WarsStar Wars
(1990/10/25)
Various Artists

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“八〇年代の詩人ハワード・ジョーンズなら、“もっと彼女を知りたいから”とでも言うだろうな。” (上巻P183)

■Howard Jones - "Like to Get to Know You Well"(1984)
12 Inch Album12 Inch Album
(2011/02/08)
Howard Jones

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上記の一節は、イギリスのニューウェイヴ/エレポップ シンガーであるハワード・ジョーンズの1984年のヒット曲のもじりです。同年にリリースされたリミックス・アルバム『The 12" Album』に、同曲の"インターナショナル・ミックス"版が収録されています。90年代以降はエレポップから離れた音楽性になるものの、現在までコンピレーションやライヴアルバムを含めてコンスタントなリリースを続けており、近年では2008年と2011年に来日公演も行っています。



“ザ・ビーパーズ『ビデオ・フィーヴァー』” (上巻P218)

■The Beepers - "Video Fever"(1983)
WarGamesWarGames



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ジョン・バダム監督による1983年発表のSFサスペンス映画『WarGames(ウォー・ゲーム)』の劇中曲。ビーパーズという架空のバンドというか企画バンドによる、どこか不安定になりそうな、それでいて妙な味のあるテクノ・ポップ チューン。ちなみに、同年に発表されたバダム監督の「ブルー・サンダー」のサウンドトラックに収録されているメインテーマのアレンジ・ヴァージョン(本編未使用)が、ビーパーズ名義でクレジットされています。



“―件名は、〈ウィ・キャン・ダンス・イフ・ウィ・ウォント・トゥ〉。メン・アット・ワークの曲のタイトルだ” (上巻P360)

■Men Without Hats - "Safety Dance"
Rhythm of YouthRhythm of Youth
(2010/10/12)
Men Without Hats

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原文を見てみると「The subject line read“We Can Dance If We Want To”」で終わっており、「メン・アット・ワークの曲のタイトルだ」にあたる文は見当たりませんでした。また、調べてみてもMEN AT WORKにそういうタイトルの曲はありませんでした。これはMEN WITHOUT HATS"Safety Dance"の冒頭の歌詞なんでしょう。80年代に活動したオーストラリアのロック・バンドMEN AT WORKと、同じく80年代に活動したカナダのニューウェイヴ・バンド MEN WITHOUT HATSで混同された可能性があります。でも、「Men at work - We Can Dance If You Want To」というのでググると両者がごっちゃになったような検索結果が出てくるんですよね。うーん、まぎらわしい。


“ニュー・オーダーの『ブルー・マンデー』。ただし『スター・ウォーズ』のドロイドの音声サンプルがふんだんに使われた八八年リミックスバージョンだ” (上巻P367)

■New Order - "Blue Monday 88 Remix"(1988)
The Best of New OrderThe Best of New Order
(1999/10/05)
New Order

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マンチェスターのロック・バンドニュー・オーダーの代表曲のひとつ"Blue Monday"は、1988年にクインシー・ジョーンズがスーパーバイザーを務めたリミックス・ヴァージョンがシングルリリースされます。アルバムでは、1994年に出たベスト盤『(The Best of)New Order』に収録。



“「『ユニオン・オブ・ザ・スネーク』」習慣から無意識にそうつぶやく。「デュラン・デュラン。一九八三年発表」” (上巻P367)

■Duran Duran - "Union Of The Snake"(1983)
Seven and the Ragged TigerSeven and the Ragged Tiger
(2007/03/01)
Duran Duran

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デュラン・デュランの9thシングル。アルバムでは、3rd『Seven and the Ragged Tiger』に収録。セクシャルな隠喩に満ちたダンス・ポップ・チューンで、フィーチャーされたアンディ・ハミルトンによるサックスも印象的な一曲です。


“ビリー・アイドルの『反逆のアイドル』のダンス・リミックスだ。” (上巻P369)

■Billy Idol"Rebel Yell"(1983)
Rebel Yell (Exp)Rebel Yell (Exp)
(1999/06/29)
Billy Idol

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ビリー・アイドルの2ndアルバム『反逆のアイドル(Rebel Yell)』のタイトルトラック。スティーヴ・スティーヴンスのギターソロも効いたハードなニューウェイヴ・チューンです。



“今度はスローな曲をかけた。シンディ・ローパー『タイム・アフター・タイム』” (上巻P371)

■Cyndi Lauper - "Time After Time"(1983)
She's So UnusualShe's So Unusual
(2000/01/10)
Cyndi Lauper

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シンディ・ローパーの1983年のデビューアルバム『She's So Unusual』に収録され、翌年シングルカットされヒットした楽曲。数多くのアーティストにカヴァーされ、とくにマイルス・デイヴィスによるカヴァーは有名。



“―L.A.スタイルの『ジェームズ・ブラウン・イズ・デッド』。クラブににぎやかな拍手が広がった” (上巻P376)

■L.A.Style - "James Brown Is Dead"(1991)
James Brown Is DeadJames Brown Is Dead
(1992/01/24)
La Style

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オランダのエレクトロ・デュオ L・A・スタイルのクラブヒット。1991年にシングルでリリースされ、1993年にアルバム『L.A. Style』に収録。日本では今はなきジュリアナ東京では定番の一曲だったとか。また、この曲が発表された当時は、もちろんジェームズ・ブラウンは存命中。"○○ is Dead"というタイトルの走りとなった楽曲で、"○○ is not Dead"だの"○○ is Still Alive"だの亜種も続々と出てます。



“ブロンディー『銀河のアトミック』” (上巻P379)

■Blondie - "Atomic"(1979)
Eat to the BeatEat to the Beat
(2001/08/17)
Blondie

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紅一点 デボラ・ハリー率いるアメリカのニューウェイヴ・パンク・バンド ブロンディの1979年発表の4thアルバム『Eat to the Beat(恋のハートビート)』に収録。翌年、シングルカットもされ、そこでは7インチミックスヴァージョンが収録されています。



“ワム!の『ウキウキ・ウェイク・ミー・アップ』を最大音量で再生するようコンピューターを設定した。” (上巻P380)

■Wham! - "Wake Me Up Before You Go-Go"(1984)
Make It BigMake It Big
(1985/02/06)
Wham!

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ジョージ・マイケルとアンドリュー・リッジリーによるイギリスのデュオ ワム!の1984年のヒット曲。シングルは英米チャート一位に輝き、同曲が収録された同年のアルバム『Make It Big』も、各国でチャート一位を総なめにしました。



“ぼくは曲名、アーティスト名、収録アルバム、リリース年を早口で言った。「『ア・ミリオン・マイルズ・アウェイ』、ザ・プリムソウルズ、『エヴリホエア・アット・ワンス』、一九八三年」” (上巻P395)

■The Plimsouls - "A Million Miles Away"(1983)
Everywhere at OnceEverywhere at Once
(1996/03/19)
Plimsouls

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アメリカのパワー・ポップ・バンド ザ・ナーヴスのメンバーであったピーター・ケイスを中心として1978年に結成されたバンド ザ・プリムソウルズの1982年のシングル。1983年発表の2ndアルバム『Everywhere at Once』にも収録。この年に解散もしていますが、その後、断続的に再結成を繰り返しています(90年代の再結成時にはブロンディのドラマー クレム・バークが参加)



“イントロを聞いただけで、ジョン・ウェイトの『チェンジ』だとわかった。『ビジョン・クエスト』サントラ。ゲフィン・レコード。一九八五年。” (上巻P395-396)

■Change - "John Waite"(1982)
IgnitionIgnition
(2005/11/21)
John Waite

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JOURNEYのジョナサン・ケインが在籍していたことでも知られるThe BabysやBAD ENGLISHのヴォーカリストであったジョン・ウェイトの1982年のソロデビューシングル。同年のアルバム『Ignition』収録。AOR/メロディック・ハード・ロックの名曲であります。「ビジョン・クエスト/青春の賭け」は、ハロルド・ベッカー監督による、1985年公開の青春映画。サントラにはJOURNEYの"Only the Young"や、FOREIGNER"Hot Blooded" などとともに収録されています。



“ゼイ・マイト・ビー・ジャイアンツの『ドント・レッツ・スタート』の一行だ。” (上巻P398)

■They Might Be Giants - "Don't Let's Start"(1986)
They Might Be GiantsThey Might Be Giants
(1993/07/01)
They Might Be Giants

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現在も精力的に活動を続けるゼイ・マイト・ビー・ジャイアンツ(TMBG)の1986年のデビューアルバム『They Might Be Giants』に収録され、翌年にマキシシングルでもリリースされた一曲。TMBGは本編のキャラクター(ひいては著者の)のとくにお気に入りのバンドのようで、度々その名が出てきます。



“ピーター・ガブリエルの『イン・ユア・アイズ』を流していた” (下巻P11)

■Peter Gabriel - In Your Eyes
So-25th Anniversary Edition (Remastered)So-25th Anniversary Edition (Remastered)
(2012/10/22)
Peter Gabriel

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世界的な大ヒットを記録した、ピーター・ゲイブリエルの1986年の楽曲。同年リリースの5thアルバム『So』に収録され、同作からのシングルカットされた五曲のうちの一曲であり、ワールド・ミュージックのテイストも強い名曲。ゲストヴォーカルで参加したユッスー・ンドゥールや、ドラムスのマヌ・カチェの名前を一躍知らしめもしました。



“大音量で鳴っている音楽がトンネルの奥から漏れ聞こえてきた。デフ・レパード、『シュガー・オン・ミー』。収録アルバムは『ヒステリア』(エピック・レコード、一九八七年)―” (下巻P37)

■Def Leppard - "Pour Some Sugar On Me"(1987)
HysteriaHysteria
(1990/10/25)
Def Leppard

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イギリスのヘヴィ・メタル・バンド デフ・レパードの1987年リリースの4thアルバム『Hysteria』に収録。翌年に同アルバムからの三つめのシングルカットとしてもリリース。前作『 Pyromania(炎のターゲット)』とともに世界中でビッグセールスを記録した、バンド絶頂期の楽曲です。QUEENの"We Will Rock You"に似ているなあと聴くたびに思いますが。



“カーペットを張った壁にかけられたスピーカーからブライアン・アダムスの曲が流れていた。どこへ行ってもみんなロックしたいんだと歌っている” (下巻P43)

■Bryan Adams - "Kids Wanna Rock"(1984)
RecklessReckless
(2014/11/24)
Bryan Adams

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カナダを代表するロック・シンガー ブライアン・アダムスの出世作となった1984年リリースの4thアルバム『Reckless』に収録。



“ゲームルームのスピーカーから『パックマン・フィーバー』が流れ始めた。” (下巻P48)

■Buckner & Garcia - "Pacman Fever"(1981)
Pac-Man FeverPac-Man Fever
(2010/08/10)
Buckner & Garcia

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バックナー&ガルシアは、ジェリー・バックナーとゲイリー・ガルシアによるアメリカのデュオ・ユニット。大ヒットした"Pacman Fever"は、「俺はパックマンにお熱なんだ」ということをひたすら歌った、パックマンのゲームSEも耳を惹くキャッチーな一曲。ちなみにこの曲が収録されている彼らの1982年のデビューアルバム『Pac-Man Fever』は、全曲が「ドンキーコング」や「フロッガー」といった当時稼動していたアーケードゲームのタイトルにちなんだものになっており、一種のコンセプトアルバムともいえる内容。なんというか一発屋っぽいのですが、現在も活動中。ちょっと前にディズニー映画「シュガーラッシュ」のサウンドトラックに書き下ろしの楽曲を提供しています。



“ラッシュ初期のSFをテーマにしたコンセプトアルバム『西暦二一一二年』” (下巻P115-116)

■Rush - "The Temples of Syrinx"(1976)
21122112
(1997/05/06)
Rush

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“「ラッシュの『サブディヴィジョンズ』のミュージックビデオにもちらっと出てくる」” (下巻P294)

■Rush - "Subdivisions"(1982)
SignalsSignals
(1997/06/03)
Rush

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ラッシュは、カナダを代表するロック・トリオ。アレックス・ライフソン、ゲディ・リー、ニール・パートの不動のトリオの名を知らしめた一大プログレッシヴ・ロック・アルバム『2112(西暦2112年)』。都市の中心にそびえる寺院「シリンクス」により、人民の生活がコンピュータ管理された社会で育った主人公が、旧文明の遺物(ギター)に触れ、社会を脱するまでを描いております。 "The Temples of Syrinx"は、組曲"2112"の第二パートにあたる部分です。アルバムのコンセプト的にはジョージ・オーウェルの『1984』(1949)より、アイン・ランドの『Anthem』(1938)がヒントになったといわれますが、後年のニール・パートのインタビューでそれは否定されます。本作では『2112』はあるシーンの大ネタのひとつとして出てきます。それは読んでのお楽しみ。"Subdivisions"は、1982年にリリースされたバンドの9thアルバム『Signals』の収録曲。80年代に入ると楽曲はよりコンパクトでツボを押さえたつくりになってゆくので、個人的には70年代よりもこの時期のアルバムの方が好きです。



“いつも『スクールハウス・ロック!』の歌詞がぼくの頭のなかをぐるぐるし始める。〈走る、行く、取る、渡す。動詞! 動作の主はきみ!〉” (上巻P137)

■Bob Dorough - "Verb: That's What's Happenin'"(1973)
“「『スリー・イズ・ア・マジック・ナンバー』ボブ・ドロー作詞作曲」アルテミスが頭のなかの百科事典から読み上げる。「一九七三年発表」” (下巻P208)

■Bob Dorough - "Three is a Magic Number"(1973)
Schoolhouse Rock!Schoolhouse Rock!
(1998/11/03)
Bob Dorough、Blossom Dearie 他

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「スクールハウス・ロック」は、1973年から1985年にかけてアメリカで放送された、音楽とともに算数や歴史などを学習するというコンセプトの子供向け教育番組。"Verb: That's What's Happenin'" "Three is a Magic Number"は、ともに劇中曲です。作曲者のボブ・ドローは、マイルス・デイヴィスやブロッサム・ディアリーなどのアルバム(ジョン・ゾーンのNaked Cityのアルバムにスペシャル・ゲストとして参加していたりもします)への参加や、ソフト・ロック・グループ Spanky and Our Gangなどのプロデュースなども手がけたジャズ・ピアニスト/シンガー。



“AC/DC『悪事と地獄』がロボットの内と外のスピーカーから大音量で流れ始めた。” (下巻P250)

■AC/DC - "Dirty Deeds Done Cheap"(1976)
Dirty Deeds Done CheapDirty Deeds Done Cheap
(1994/07/19)
Ac/Dc

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永遠のスクールボーイ アンガス・ヤング擁するオーストラリアのハード・ロック・バンド AD/DCの1976年リリースのシングル。アトランティックと契約を結び、世界に乗り出し始めた時期の楽曲であり、同年の3rdアルバム『Dirty Deeds Done Dirt Cheap』のタイトルトラック&オープニングトラックでもあります。「スティール・ボール・ラン」の大統領のスタンド D4Cの元ネタはもちろんこの曲。「いともたやすく行われるえげつない行為」。

2015年3月20日金曜日

プログレッシヴ・フュージョンの傑作、30年目の初CD化 ― 深町純『エイリアン魔獣境 菊地秀行冒険行』(1985/2015)

エイリアン魔獣境 (1) (ソノラマ文庫 (261))エイリアン魔獣境 (1) (ソノラマ文庫 (261))
(1983/11)
菊地 秀行

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菊地秀行原作の伝奇アクション〈トレジャー・ハンター 八頭大(やがしら・だい〉シリーズ。'83年に第一作目『エイリアン秘宝街』がソノラマ文庫から刊行されて三十年以上経った現在もシリーズは継続中であり、つい先月にも最新作『エイリアン兇像譚』が刊行されたばかり。そして、つい先日、知る人とぞ知る企画アルバムが約三十年の時を経て初CD化による再発を果たしました。本作は'85年に日本コロムビアよりLPでリリースされた『エイリアン魔獣境』のイメージアルバム。正確には、シリーズ第二作目『エイリアン魔獣境(1・2)』(1983年11月/12月刊行)と、第六作目『エイリアン魔界航路』(1984年12月刊行)のイメージアルバムです。作曲・編曲を手がけたのは、孤高の天才キーボーディスト/コンポーザーの深町純氏。この時期の深町氏はイメージアルバムものを立て続けに手がけられており、前年には、吉野朔実さんの漫画「月下の一群」のイメージアルバム(和田アキラ氏が一曲にギター演奏で参加)や、日本コロムビアが80年代に展開していたアニメ/特撮音楽のシンセサイザー・アレンジ企画〈DIGITAL TRIP〉の一環としてリリースされた「うる星やつら」のアレンジアルバム(編曲・演奏を担当)、また、KEEPのメンバーと共に録音した、SF映像作品「STARVIEW HCT-5808」のサウンドトラックをリリースしています。

エイリアン魔獣境エイリアン魔獣境
(2015/03/18)
深町純

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 そして本作もまた、全面的にKEEPによる演奏でレコーディングされております。KEEPは、深町氏(kbd)を筆頭に、PRISMの和田アキラ氏(g)、トランザムの富倉安生氏(b)、SHOGUNや渡辺香津美バンドに名を連ねていた山木秀夫氏(ds)の四名の無敵のラインナップによるフュージョン/プログレッシヴ・ロック・バンド。'81年に1stアルバム『DG-851』を、'82年に2ndアルバム『Rock'n Rocked Rock』をリリース。前者ではヴォーカル曲も交えてのメロディアスなフュージョンを、後者ではよりハードな演奏と複雑な楽曲構築を強めたプログレッシヴなサウンドをそれぞれ展開しておりました(ともに傑作です)。『エイリアン魔獣境』はKEEP名義ではないものの、実質的にはKEEPの3rdアルバムととらえても何ら遜色のないものであり、1st、2ndのテイストを踏襲しながら、原作小説のイメージも投影させた多彩な色合いのある内容に仕上がっております。

 前半四曲は『エイリアン魔獣境』に基づいており、冒頭の"REQUIEM"は、本編に登場する天才ピアニスト クリストファー・サイラスの奏でる鎮魂曲をイメージしたアコースティック・ピアノのソロで幕開けする一曲。深町氏の情感あふれるタッチから、ギターのロングトーンが奏でる雄大な中間部を経て、ハードなフュージョン・パートへと流れてゆきます。シャレた味わいのファンキーなフュージョン"TREASURE HUNTER"、や、ハートウォーミングな小品"TWILIGHT ZONE"を挟みつつ、まさに密林・魔境といった感を演出するギターのうねりとリズム隊の野趣あふれるビートの上をシンセサイザーが渦巻く"THE DINOSAUR AGE"も聴きもの。後半四曲は『エイリアン魔界航路』をイメージしたもの。映画のスコアに通じるシンフォニックなテイストの"NEPTUNE"や、同作に登場する野生的ヒロイン リマをイメージした"LIMA"のようなシンセサイザー・バラード、そしてプログレに舵を切った楽曲が並びます。"THE LEGEND OF THE ARK" "WANDERING IN THE WORLD OF SPIRITS"は、ともに起伏に富んだスリリングな展開のプログレチューン(ちょっとキース・エマーソン風味)。全体的にコンパクトな構成ながら、楽曲としても、また、イメージアルバムとしても申し分のない素晴らしいアルバムであり、数十年の時が経った今でもやはり名作なのであります。

 本当に嬉しい再発でありました。できることなら、こういう復刻企画をもっとやっていただきたいなと願うところです。深町氏の手がけられた作品に限らず、このころにリリースされたイメージアルバム作品は秀逸な内容でありながら未だにCD化されていないものがとても多く、非常に惜しまれるところです。'85年というと、栗本薫さんの伝奇小説『魔境遊撃隊』のイメージアルバム(全曲を久石譲氏が担当)や、和田慎二氏のファンタジー漫画「ピグマリオ」のイメージアルバム(編曲を井上誠氏、演奏をヒカシューが担当)も出ていました。このまま過去の遺産としてしまうにはもったいないですよ、本当に。


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『エイリアン魔獣境』

原作/菊地秀行(ソノラマ文庫)
ジャケット作画/天野喜孝
作曲・演奏/深町純


〔エイリアン魔獣境〕より
01. REQUIEM
02. TREASURE HUNTER
03. THE DINOSAUR AGE
04. TWILIGHT ZONE

〔エイリアン魔界航路〕より
05. NEPTUNE
06. THE LEGEND OF THE ARK
07. LIMA
08. WANDERING IN THE WORLD OF SPIRITS

LP [Columbia/1984/CX-7242]
HQ-CD [Columbia/2015.3.18/COCX-39064]

深町純(keyboard)
和田アキラ(guitar)
富倉安生(bass)
山木秀夫(drums)


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FUKAMACHI ism [深町純 Official Site]

2015年3月16日月曜日

bandcampで探る、名状しがたきクトゥルー・ミュージック・カタログ20選



3月15日はハワード・フィリップス・ラヴクラフトの命日であります。そういうわけで、bandcampに蠢くクトゥルー影響下のバンドや音楽作品を、私の独断と偏見でいくつか選んでみました。元ネタが元ネタだけに出てくるものはどうしてもダーク・アンビエントやドゥーム・メタルなどのソッチ系ジャンルが多いなという印象ですが、たまーにヘンなものがあったりするのがまた面白いのです。ここに紹介した以外にもまだまだ埋もれているので、独自に漁ってみてはいかがでしょうか。ただし、正気はほどほどに保ちましょう。

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クトゥルーとチェンバー・ロックは古くから非常に相性がよく、チェンバー・ロックの始祖であるベルギーのUNIVERS ZEROは前身バンドではARKHAM(アーカム)を名乗るなどラヴクラフトからの強い影響を公言しており、アルバムには"La musique d'Erich Zann(エーリッヒ・ツァンの音楽)"なる楽曲を収めております。そしてこちらに紹介するのは、ウクライナのチェンバー・ロック・バンド Cthulhu Rise。2007年結成で、2012年にアルバム『42』でデビューして現在に至ります。ジャズやマスロックの要素も強い新鋭であり、名状し難い感じに込み入ったアヴァン・プログレッシヴ・サウンドを聴かせる実力派でもあります。




イギリスのオルタナティヴ/ハードコアバンド(と思われる) The Men That Will Not Be Blamed For Nothingによる単発ものの楽曲。キュートなジャケットにダマされて聴くと、名状しがたい落差を備えた楽曲展開に鼻っ柱をヘシ折られます。




ダーク・アンビエント系レーベル Cryo Chamberよりリリースされた、ある種の極めつけともいえる作品。79分42秒の一曲のみが収録されたクトゥルー・コラボレーション・アルバムであり、このおぞましい大曲には13名ものアーティストの思念がグズグズに融合しています。




アイルランド・ダブリンで映画、TVスコアやゲーム、オーディオブックなどのスコアを手がけているコンポーザー Graham Plowmanによる、オーケストラルな「クトゥルーの呼び声」イメージ・サウンドトラック。エピックであり強迫的でもある三つのチャプターのスコアに、三つのボーナストラックを追加した全六曲。




主にスチーム・パンクコンセプトのアルバムを制作しているニューヨークのコンポーザー Paul Shaperaのユニット Mocha Labによる一作。Funk/AORな曲調でクトゥルーを歌うという、ユニークな切り口というか奇妙な組み合わせのアルバムなのですが、これが実にいい感じなのです。




シアトルの暗黒シンガーソングライター Erich Zannの最新EP(2015年1月リリース)。ヴィオラ、ではなくアコースティック・ギターとヴォーカルのみで暗く乾いた世界観へと誘う。name your price(投げ銭)にてダウンロード可能。




ラヴクラフト影響下のカリフォルニアのメタルクラスト/スラッシュメタル バンド Temple of Dagonのデビューアルバム。恐ろしくイキがよい。深淵まで突貫したサウンド。




ユタ州のラヴクラフティアン AKLOの二作目。「インスマスを覆う影」「狂気の山脈にて」「時間からの影」などにインスパイアされた楽曲で構成されるインダストリアル/ダーク・アンビエントなインストゥルメンタルアルバム。無機質なようで、非常な酩酊感をおぼえるサウンドです。




クトゥルーもののiOSアプリゲーム「The Moaning Words」のサウンドトラック。異郷感と密林感にあふれるスコア。コンポーザーはパリ出身のXavier Thiry




イギリスのトラックメイカー Chris C'tanが主宰するエレクトロ・アクト Ion Plasma Incinerationの多数あるプロジェクトのうちのひとつ「Boron Division」による、クトゥルーコンセプトアルバム。シャウト入りのサイケデリック・トランス/ダークウェイヴを展開した一枚。アルバムタイトルの「Antikythera Of Azathoth(アザトースのアンティキティラ)」とは、デウス・エクス・マキナ的な意味合いなのでしょうか。




フランスのフューネラル・ドゥーム・プロジェクト Abysmal Growls Of Despair。「Lovecraftian Drone」というタイトル通り、クトゥルーコンセプトの長尺ドローン/フューネラルドゥームを全6曲90分に渡って展開した退廃的死臭ただようアルバム。name your price(投げ銭)でダウンロードできます。




ギリシャのゴシック/ネオクラシカル系コンポーザー William M. V. Dravenが、深きものどもの見る夢からの反響をサウンドに託した一枚。瘴気をまといながらもある種の神々しさすら感じさせるダークウェイヴ・サウンド。




ドイツのインディー・ロック・トリオ 7 Days Awakeの2011年作品。サイケデリック/クラウトロックのテイストをたっぷりと滲ませた、ヘロヘロな一枚。




ラヴクラフトのみならず、ロバート・E・ハワード、フランク・フラゼッタ、HAWKWIND、Black Sabbath、MOTORHEADからの影響も公言するミシガンのクトーニアン・ストーナー・ロック・バンド Blue Snaggletoothの1stフルアルバム。酒をかっくらいたくなるラフなグルーヴにあふれた良作。




ライターや俳優やコンポーザーとしてクトゥルーものの企画に携わり、「The H.P. Lovecraft Literary Podcast」のホストも務めるChad Fiferによる番組のサウンドトラックのVol.2。ちなみにチャド氏は「R.O.D」の海外版で玄奘三蔵役の吹き替えも担当されておりました。




ロシアの地のラヴクラフト馬鹿 Dig me no graveの2014年リリースの2ndフルアルバム。宇宙的恐怖をオールドスクールなデスメタルに託してぶつけてくるカルトなバンド。新鋭らしからぬ説得力のあるサウンドなのでオススメしたい手合い。




同じくロシアより。サンクトペテルブルグのエクスペリメンタル・ミュージック・プロジェクト Cthulhu [Biomechanical]による2006年作。冷ややかで無慈悲きわまるインダストリアル/エレクトロ アルバム。




ブラジルのスラッジ/グルーヴ・メタル バンド Ape X and The Neanderthal Death Squadのデビューフルアルバム。コズミック・ホラーの強い影響下もとに、業の深いヴァイオレンスな音楽性を叩きつけてきます。"The Awakening Of Cthulhu" "At The Mountains of Madness"は、問答無用の疾走リフと無慈悲なシャウトですべてを呑み込むクトゥルー・スラッシュ。ダウンロードはname your price (投げ銭)にて。単体紹介記事はコチラ




オーストラリア・シドニーのトラックメイカー Humanoidsによる、ラヴクラフトにインスパイアされたドープな三曲を収録したEP。“miskatronic”とは、誰がうまいことを言えと。そして テケリリ~♪ テケリリ~♪ コーラスの妙味。




1997年より活動を続けているフィンランドのコンポーザーによるワンマンプロジェクト Jääportitが、ラヴクラフトへのトリビュートオムニバスアルバムへ提供した約25分の大曲。コズミックな趣向で深淵へと誘われる一曲。ジャケットアートはバンドデシネ界の異端児 フィリップ・ドリュイエの「Yragael」「Lone Sloane」からの抜粋。

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クトゥルーと音楽について論じた書籍として、Gary Hillが著した「The Strange Sound of Cthulhu: Music Inspired by the Writings of H. P. Lovecraft」というものが2006年に出ています。

The Strange Sound of Cthulhu: Music Inspired by the Writings of H. P. LovecraftThe Strange Sound of Cthulhu: Music Inspired by the Writings of H. P. Lovecraft
(2006/08/30)
Gary Hill

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また、2002年に東京創元社より「歴史編」「現代編」の二冊にわたり刊行された、作家、評論家、アーティストが多数参加した書き下ろしのクトゥルー・アンソロジー〈秘神界〉の「現代編」には、霜月蒼氏による濃密なクトゥルー×ヘヴィメタル評論「異次元からの音、あるいは邪神金属」が収録されており、必見の内容であります。

秘神界―現代編 (創元推理文庫)秘神界―現代編 (創元推理文庫)
(2002/09)
朝松 健

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2015年3月11日水曜日

現代英国プログレ・シーンのワーカホリックな才人 ジョン・ミッチェルの新プロジェクト ― Lonely Robot『Please Come Home』(2015)

Please Come Home -Digi-Please Come Home -Digi-
(2015/03/03)
Lonely Robot

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https://itunes.apple.com/jp/album/please-come-home/id959410702

 ARENA、KINO、IT BITES、FROST*などのバンドでヴォーカリスト/プレイヤーを務めるのみならず、ジョン・ウェットンやマーティン・バレなどの大御所のツアーサポート、そしてレコーディングエンジニアやプロデューサーとして、Enter ShikariやYou Me At Six、Funeral for a Friend、TouchstoneなどのUKロックバンドのアルバムに携わるなど、英国プログレッシヴ・ロック・シーンにとどまらないワーカホリックな活動を続けているマルチ・ミュージシャン ジョン・ミッチェル。彼が各活動の合間を縫って(FROST*は現在ほぼ活動停止中のようですが)新たに立ち上げたロック・プロジェクトが、このロンリー・ロボットです。もちろん、ジョンは全曲の作編曲やベーシックトラックの演奏にはじまり、ミックス、マスタリング、プロデュースに至るまで全てを担当。リズム隊にはLIFESIGNSのニック・ベッグス(b)、FROST*のクレイグ・ブランデル(ds)を据え、さらにゲストでFROST*のジェム・ゴドフリー(kbd/g/chapman stick)、Marillionのスティーヴ・ホガース(piano/backing vo)、Go Westのピーター・コックス(vo)、ニック・カーショウ(g)、元Mostly Autumnのへザー・フィンドレイ(vo)、Touchstoneのキム・セヴィア(vo)ら、多数のミュージシャンを迎えて制作。また、「マスター・アンド・コマンダー」「ハリー・ポッターとアズカバンの囚人」などで知られる俳優のリー・イングルビーがナレーションで参加しています。



 サウンドの方向性としては、The UrbaneやKINO、IT BITESに通底する歌ものメロディック・ロック路線であり、盟友 ジェム・ゴドフリーを迎えての壮大なイントロダクション"Airlock"にはじまり、スイートなヴォーカルとダイナミックなリフでガツンと決める"God Vs Man"、ピーター・コックスが存在感バツグンのパワフルなヴォーカルを聴かせる"The Boy In The Radio"の流れですでに「これこれ、これだよ!」という手応えを感じさせてくれます。スティーヴ・ホガースのピアノをフィーチャーした"Why Do We Stay?"は、ヘザー・フィンドレイの澄み渡るヴォーカルとのデュエット曲であり、さらにホガースのバッキング・ヴォーカルとの絡みも聴きものな珠玉のバラードナンバー。ホガースは当初はピアノのみでの参加だったのですが、レコーディング当日にヴォーカルも入れることを決意したんだそうな。曲がいいだけに、彼が思わず歌を入れたくなったというのもなるほどよくわかります。"Lonely Robot"は、疾走感とキャッチーさを併せ持った本作のハイライト曲で、同曲に参加しているレベッカ・ニード・ミネア(vo)、ジェイミー・フィンチ(g)のふたりは、近年デビューしたエモーショナルなオルタナティヴ・ロック・デュオ Anavaeのメンバー。彼らもまた、ジョンがプロデュースに関わっているユニットなのです。"A Godless Sea"は、さながら沈殿していくかのような、アンビエントなギター・インストゥルメンタル。60年代末期に行われた世界一周ヨットレースで謎の失踪を遂げたドナルド・クロウハーストに捧げられた楽曲でもあります。キム・セヴィアとのデュエットによる"Oubliette"、完全にIT BITESナンバーといえる爽快ポップチューン"Construct/Obstruct"、モダンなヘヴィ・プログレ"Are We Copies?"を経て、"Humans Being"ではブリティッシュ・ポップの大御所 ニック・カーショウがリードギターで参加。ホガースのピアノとバッキング・ヴォーカルも再び登場し、滋味あふれる絡みを聴かせてくれます。ラストはピアノとヴォーカルのみのシンプルなトラック"The Red Balloon"で切々としたムードを残して幕を閉じます。なお、スペシャル・エディションのデジパック盤には、ミックス違いの三曲のボーナス・トラックを収録。いわゆるオマケですが、エレクトロテイストを強めてさらに神秘性が増した感のある"A Godless Sea (Ocean Mix)"はなかなかユニークな仕上がり。ミュージシャンとしての面以上に、ソングライターとしてのミッチェルの魅力が遺憾なく発揮された一枚。ゲストの顔ぶれの豪華さに引っ張られることなく、歌ものアルバムとしてしっかりとした芯を通しており、ミッチェルの舵取りの見事さにも感服いたしました。



https://www.facebook.com/johnchristianmitchell

Lonely Robot『Please Come Home』 - Progstreaming
アルバムの全曲をフルサイズでストリーミング試聴可能(※期間限定)

INTERVIEW “PLEASE COME HOME” 【LONELY ROBOT】- Marunouchi Muzik Magazine
ジョン・ミッチェルへのインタビュー(日本語訳つき)

IT BITES『Map of the Past』(2012)
IT BITES「The Tall Ships」(2008)

2015年3月5日木曜日

受け継がれる音楽的遺伝子。ジョン・カーペンターの息子コディ率いるプログレッシヴ・ロック・バンド ― Ludrium『Zeal』(2012)



 コディ・カーペンターは、監督/プロデューサー/コンポーザーのジョン・カーペンターと、女優エイドリアン・バーボーとのあいだに生まれた息子。ジョンが監督・コンポーザーをつとめた「ヴァンパイア/最後の聖戦」(1998)のスコアにキーボーディストとしてクレジットされていたほか、ジョンが参加したオムニバス企画のテレビシリーズ〈マスターズ・オブ・ホラー〉の第一期作品「世界の終り」(2005)と、第二期作品「グッバイ・ベイビー」(2006)のスコアを担当。また、先ごろリリースされたジョンのキャリア初となるソロアルバム『Lost Themes』でも、共同作曲者/ミュージシャンとして深く関与しております。祖父のハワード・カーペンターが音楽家/ヴァイオリニストだったことを考えると、親子三代にわたって音楽的遺伝子が脈々と受け継がれてきているということにもなりますが、そんな彼は近年、Ludriumというプログレッシヴ・ロック・バンドでも活動を展開しています。バンドとは言いましたが、実質的にコディのワンマンプロジェクトであり、ギター、ベース、ドラムス、キーボード、そしてヴォーカルにいたるまで全て彼が担当するというマルチ・ミュージシャンぶりを発揮しています。



 2012年にリリースされた『Zeal』は、Ludriumのデビューアルバムにあたる作品です。父ジョンはプログレッシヴ・ロック・バンドのなかではGENESISが好きだそうですが、コディはプログレ全般の大ファンだそうで、本作ではGENESISやEL&Pなどのブリティッシュ・プログレや、IQやPENDRAGONなどの80年代ネオ・プログレッシヴ・ロックからの流れも色濃く汲んだ、ピアノ/キーボード主体の楽曲を展開しております。ところどころでフュージョンやゲーム・ミュージックからの影響も滲み出ているのもポイントでしょう。変拍子をソフトに織り込みながら派手に展開する楽曲構成と軽やかな演奏もさることながら、素朴ながらジェントリーな味のあるコディのヴォーカル/コーラスもじわりと効いていて、総じてクオリティの高い仕上がり。ラストを飾る九分のプログレッシヴ・フュージョン大曲"The Final Battle"はアルバムのハイライトとしても見事です。ハートウォーミングなピアノバラード"Your Indignation"や、キース・エマーソン影響下の流麗なインストゥルメンタル"The Wolf Goddess"も素晴らしい。




 おそらくは語学留学と思われますが、コディは最近まで日本に長期滞在していたようで、そのときには現地でメンバーを募り、四人編成のバンドとして演奏活動も行っていたようです。YouTubeの本人のアカウントで、昨年六月にアンスティチュ・フランセ(仏語学校)のコンサートで演奏したときの映像があがっております。また、同アカウントではアルバムに収録されていないプログレッシヴ・フュージョン系のインスト曲や、「F-ZERO」「アクスレイ」「ストライダー飛竜」「悪魔城伝説」「ウェーブレース64」などのゲームミュージックのリミックスや演奏動画なども投稿しており、彼のゲーム好きな側面がうかがえます……一時期話題になったカルトなクソゲー「チーターマンII」の曲をリミックスしていたのにはさすがに噴きましたが(笑)。そういえば、ジョンの『Lost Themes』のレコーディングは、ビデオゲームを遊びながら進められていたのですよねえ。また、“細江慎治氏の初期の楽曲にインスパイアされた” “80'sプログレッシヴ・フュージョン・スタイル”の楽曲を投稿しているところも非常に興味深いと思いました("Cyber Sloth"という楽曲なのですが、現在は削除されており聴けません)。bandcampやsoundcloudでここのところアップしているインスト曲もエレクトロ・フュージョン調でありますし、コディのルーツはプログレとゲーム音楽なんだなということがうかがえます。







https://www.facebook.com/ludrium

Cody Carpenter - Imdb
John Carpenter: 新たな世界 - Resident Advisor
John Carpenter『Lost Themes』(2015)
Cody Carpenter - YouTube Channel
Cody Carpenter - soundcloud

2015年3月3日火曜日

コンポーザーとしてのジョン・カーペンターのエッセンスを凝縮 ― John Carpenter『Lost Themes』(2015)

Lost ThemesLost Themes
(2015/02/03)
John Carpenter

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https://itunes.apple.com/jp/album/lost-themes/id958493689

 『ジョン・カーペンターの要塞警察』 『ハロウィン』 『遊星からの物体X』 『ニューヨーク1997』 などなど、数多くの怪奇/ホラー/SF/スプラッター映画を手がける、泣く子も黙る存在 ジョン・カーペンター。監督、脚本、役者のみならず、コンポーザーとして自らスコアも作曲。低予算制作ゆえに必然的に自ら担当せざるを得なかった面もあるのでしょうが、それでも氏の楽曲には得がたい魅力があり、“ベンベン”とうなるベースラインは唯一無二ともいえるほどに大きな特徴になっております。『ゴーストハンターズ』(1986)では監督仲間であるニック・キャッスル、トミー・ウォレスとともにバンド Coupe De Villesを結成し、ニューウェイヴ感あふれる秀曲を制作。『ゴースト・オブ・マーズ』(2001)では、ANTHRAXやスティーヴ・ヴァイ、バケットヘッド(GUNS N'ROSES)、ロビン・フィンク(Nine Inch Nails)をフィーチャリングするなど、音楽面においても衰えぬ創作意欲をみせております。

 今年で御歳六十七歳を迎えた彼が、数十年に及ぶ自身のキャリアで初となるオリジナルアルバムを二月にリリースするとアナウンスし、大きな話題となったわけですが、それがこの『Lost Themes』であります。今から二年ほど前、ジョンと息子のコディ・カーペンターが数時間ほどビデオゲームで遊んだあとに、地下のスタジオに入って数時間の楽曲制作を行うということを繰り返していた時期があり、そのセッションで生み出されたマテリアルが元になったとのこと。その後、氏のもとにやってきた音楽関係のエージェントが、氏から受け取った楽曲をレーベルに持ち込み、トントン拍子で契約に至ります。ちなみに、リリース元であるSacred Bones Recordsは、デヴィッド・リンチのソロアルバム『The Big Dream』(2013)のリリース元でもあります。

 アルバムの制作にあたっては前述のコディのほか、ダニエル・デイヴィスが作曲・演奏・エンジニアリングで加わっています。この名前でピンとくる方もいるかもしれませんが、ダニエルはブリティッシュ・ロックのヴェテランバンド The Kinksのギタリストであるデイヴ・デイヴィスの息子です。ジョンはダニエルの名づけの親であり、育ての親でもあるのです。ちなみに、デイヴとジョンは長年親しい関係にあり、ジョンが監督を務めた「マウス・オブ・マッドネス」(1994)や「光る眼」(1995)のスコアでデイヴはプレイヤー/コンポーザーとして参加しておりました。ジョンいわく、ダニエルの音楽的才能は父親譲りなのだとか。





 アルバムの楽曲は全九曲。短いものでは三分、長いものでは八分ありますが、いずれもヒンヤリとしたシンセサイザーのシーケンスに、単音のメロディが乗り、ベンベンとうなるベースが入って、エレクトリック・ギターがジャーンと鳴る、エレクトロで少々ミニマルなインストゥルメンタル。つくりはいたってシンプルですが、どれもきっちりとジョン・カーペンターの刻印がみてとれる仕上がりです。"Abyss""Night"は、さながら「ゴーストハンターズ」や「ニューヨーク1997」のスコアのアウトテイクのような趣も感じさせます。映画スコアでもメロディアスなタッチは度々ありましたが、本作の楽曲は映像に付随するものではないということもあってか、イメージを喚起させるという以上に強くメロディを主張したものになっており、楽曲後半部で泣きの旋律をたっぷりと聴かせる"Domain"や、目の醒めるような冷たさを併せ持ったリリカルなメロディラインが胸を打つ"Mystery"は、まごうことなき名曲です。また、チャーチ・オルガンの音色が妖しく響き渡る"Obsidian"ではGOBLINに、淡々としたシンセサイザーとギターソロのうねりが心地よい"Fallen" "Wrath"ではTANGERINE DREAMにそれぞれ共鳴するかのような雰囲気も感じさせますし、息子コディのプログレッシヴ・ロック嗜好も多少なりとも反映されているのだろうなということがわかります(彼は自らLudriumというプログレ・バンドを率いて活動もしているのです)。コンポーザーとしてのジョン・カーペンターのエッセンスをそこかしこに感じさせる興味深い内容であるのはもちろんなのですが、なにより楽曲として素晴らしいのが大きなポイントでありましょう。氏のファンのみならず、映画音楽ファンやシンセサイザー・ミュージック、エレクトロ/アンビエント、そしてプログレッシヴ・ロックを好む向きにも十分にアピールできる一枚なのです。





 以下は余談になりますが、自伝/インタビュー本『恐怖の詩学 ジョン・カーペンター』(フィルムアート社/2004年刊)のなかで、氏が「ハロウィン」のスコアに触れている部分が興味深かったので、一部を引用します。

恐怖の詩学 ジョン・カーペンター―人間は悪魔にも聖人にもなるんだ (映画作家が自身を語る)恐怖の詩学 ジョン・カーペンター―人間は悪魔にも聖人にもなるんだ (映画作家が自身を語る)
(2004/11)
ジル ブーランジェ、 他

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“若いころ父が二個のボンゴを使って「四分の五拍子」を教えてくれたんだ。ほんとの話さ。たいていの曲は「四分の四拍子」、つまり四つの音符とその繰り返しだ。四分の五拍子というのは中途半端なんだよ。(中略)低予算の映画だったので、『ハロウィン』の音楽は三日で作らなければならなかった。それでこの曲を作ったんだが、基本的に一オクターブの曲で、それが半音下がる。反復的な曲なのでいつまでも演奏することができた。たいていのポピュラー音楽、たいていの交響曲やクラッシック音楽はこんな変なテンポは取らないので、観客はこれを聴いたらイライラする。少し高い強迫的な電子音を使ったのでなおさらだ。あの曲がキャラクターのひとつになったのは、あれ以外に使える曲がなかったせいなんだ。いまはもっといい曲を書いているが、あの簡単な小曲よりも忘れがたく人を惹きつけるものはもう書けないだろうね。変な話だろ?”
『恐怖の詩学 ジョン・カーペンター』(P111~112より)


「The 10 best film soundtracks, according to John Carpenter」- DummyMag
http://www.dummymag.com/lists/the-10-best-movie-soundtracks-ever-according-to-john-carpenter

 こちらは海外サイトに掲載された、ジョンが選んだ映画サウンドトラック十選のリスト。TANGERINE DREAMの『Sorcerer(恐怖の報酬)』のサウンドトラックが入っていて膝を打ちますが、バーナード・ハーマンが手がけたスコアがいくつも入っているところが興味深いなと思います。シンプルなメロディからスコアを作り上げていくハーマンの手法は、ジョンに強く影響を与えたということがうかがえます。

『Lost Themes』リリースに伴うインタビュー
John Carpenter: 新たな世界 - Resident Advisor
Horror Legend John Carpenter Discusses Making Cinematic, Spooky New Album ‘Lost Themes': Interview - IDOLATOR
John Carpenter Talks Debut Album 'Lost Themes' & Why Music Is Easier Than Directing - billboard.com

John Carpenter - Discogs