2014年12月6日土曜日

そして迎えた特異点、壮大なるSFプログレメタル三部作開幕 ― SCAR SYMMETRY『The Singularity (Phase I - Neohumanity)』(2014)

SingularitySingularity
(2014/10/14)
Scar Symmetry

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スウェーデンのプログレッシヴ・メタル・バンド SCAR SYMMETRYの、3年ぶりに発表された通産6thアルバム。複数のバンドと活動を兼任している実力者ぞろいのメンバーで構成されたスウェーデンでも有数のメタルバンドなのですが、前作『The Unseen Empire』(2011)の後、創設メンバーのひとりであり、ソングライティングにも深く関わっていたギタリストのJonas Kjellgrenが多忙のためバンドを脱退。彼は五つや六つものバンドやプロジェクトに名を連ねるもっともワーカホリックな人物だっただけに、2008年に前任ヴォーカルのChristian Älvestamが脱退し、ツイン・ヴォーカル編成にシフトしたとき以上に、バンドにとって大きな出来事となりました。今のところJonasの後任メンバーを迎える予定はなく、ライヴではサポートメンバーを迎えての六人編成として活動を継続していくというアナウンスもされ、さて今後の方向性はいかにといったところで期待と不安の思惑のなか発表されたのが本作です。

結論から言ってしまうと、見違えるほどに大化けしました。正直ここまで変わるものなのかと非常にビックリしてしまった。浮遊感と重厚さを兼ね備えたインパクトの強いサウンドや、クリーンヴォイスとグロウルの絶妙な交錯など、メンバーの確かな技量も相まった強みの多い反面、よくも悪くも真面目なところがあって、アルバムとしては優等生的な一本調子でまとまっているというところに多少なりとももどかしさがあったのですが、今回はこれまでJonasと分かち合う形でソングライティングを担当していたギタリストのPer Nilssonがプロデュースやミキシング、マスタリングも含めて全ての楽曲を手がけるようになり、これが決定的な大変革をもたらしています。Christian脱退後の4thアルバム『Dark Matter Dimensions』(2009)以来の、いやそれ以上の劇的な新陳代謝が働いており、これまで展開してきた正統派メロディック・デスメタルの装いはそのままに、プログレッシヴ・メタルとしても落としどころを設けた強靭な内容に文句なしに打ちのめされました。もとよりキャッチーな側面は強く持っているので、そこにテクニカルなフックと空間的にドラマティックな演出、押しと引きの妙を存分に効かせたとなれば、傑作とならないほうがおかしいというものです。



約1分のイントロダクション"The Shape Of Things To Come"を経て、いきなり9分近い"Neohuman"でアルバムは幕を開けますが、跳ね気味のギターリフや滑らか極まりないソロパート、そしてグロウル/クリーンヴォイスの華麗なスイッチングはもちろん、叙情的な広がりもたっぷりと聴かせており、明らかにこれまでとは違うということを見せつけてくれます。先行公開された"Limits To Infinity"も強力なキラーチューン。Cメロとサビの二段構えのメロディラインに全てが収束していくキャッチー極まりない構成に、至上の開放感とカタルシスを味わわされます。"Cryonic Harvest"もまた、フックを伴った突進力で叩きのめす前半とシンフォニック・ロックばりの引きの美しさのある後半の対比が光る1曲。Per Nilssonが2006年からいちメンバーとして参加している、同国の重鎮プログレッシヴ・ロック・バンド KAIPAでの活動からのフィードバックもこれまで以上に働いているのではないかとも思いました。"Children Of The Integrated Circuit"は、そんな彼の情感たっぷりなギターソロを2分半に渡って聴かせるインストゥルメンタル小品。こういう曲が入ってくるのもこれまでにはなかったところです。両サイドを固めるのが、最初からクライマックスなテンションで突っ切った"The Spiral Timeshift"と、ヴォーカルの技巧が効いた"Neuromancers"の二曲というのも実に際立った構成です。ラストは鬼のようなシュレッド・ギターと可変に次ぐ可変でドラマティックに見せる10分越えの大曲"Technocalyptic Cybergeddon"。エクストリーム・メタルで火蓋を切りながらも、最終的にプログレッシヴ・ロック的な終息を迎えるというスケール感。パワー、スピード、テクニック、そしてドラマの四拍子が揃ったバツグンの力作で、凡百のdjent系サウンドに対するこのバンドからの回答ともとれます。終盤では冒頭の"The Shape Of Things To Come"で提示したフレーズをもってくるというベタな趣向も、やたらと説得力を持って迫ってきます。もどかしさを感じることなく最後まで聴き通せてしまいました。脱帽です。

ポスト・ヒューマン誕生―コンピュータが人類の知性を超えるときポスト・ヒューマン誕生―コンピュータが人類の知性を超えるとき
(2007/01)
レイ・カーツワイル、井上 健 他

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なにより、えらく感覚的な話になってしまいますが、"Neohuman" "Neuromancers" "Technocalyptic Cybergeddon"なんて曲名がズラリとひしめいているという様はたまらないものがあります。「サイバゲドン」なんていうたじろぎそうなワードを臆面なくブチかましてくるバンドなんて今日びそうそうないですよ。アルバムコンセプトや作詞を一手に手がけるドラムスのHenrik Ohlssonは、これまでに“ホログラフィック・ユニヴァース”(Michael Talbotが提唱した「宇宙は一種のホログラムである」という宇宙空間理論)やダークマター、世界を支配する不可視の帝国といったそそるテーマを提示してきましたが、今回のアルバムで打ち出したのは「シンギュラリティ(技術的特異点)」。これはアメリカのフューチャリストであるRay Kurzweilが提唱した理論で、「加速度的な技術進歩で人工知能が特異点を迎えて人間を凌駕したとき、その先に何が待ち構えているのか」という、技術開発研究やSFのフィールドでも馴染みの深いテーマのひとつ。知性を獲得したネオ・ヒューマン(ポスト・ヒューマン)の到来による新たなディストピアに人類はどう相対するかというゴリゴリにド直球のコンセプトを貫いております(ちなみに、カーツワイルは2045年に決定的転換を迎えると述べており、本作では"Neuromancers"の詞にそれが明らかに反映されています)。また同時に、本作を起点としてアルバム三部作となるという構想まで明らかにしております。いやはや、何から何まで心底参ってしまった。バンドサウンド自体も特異点によりパラダイムシフトを迎えたかのような、有無を言わさぬ傑作です。アルバム三部作として展開していくという大風呂敷を広げてしまった以上、途中で失速したりしないかという不安は若干あるにしても、しょっぱなからこれだけのものを打ち出したバンドのことです、やってのけると信じています。

『The Singularity (Phase I, Neohumanity)』 - progstreaming
全曲フルストリーミング試聴可能

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SCAR SYMMETRY - Enxyclopedia Metallum
汎用人工知能と技術的特異点