2014年4月29日火曜日

蠢くMAGMAの眷属たち ― フランスのレーベル「Soleil Zeuhl」が数時間に渡るサンプラーをsoundcloudで公開中

架空原語であるコバイア語を操り、呪術的でスリリングな音楽性で唯一無二の存在として現在も君臨し続けるフランスのプログレッシヴ・ロック・バンド MAGMA。彼らが後身に与えた影響は小さくなく、世界各国にフォロワーが存在します。「ZEUHL(ズール)」とは、それらフォロワーの総称であり、また一つの音楽ジャンルであります。MAGMAのお膝元であるフランスには「Soleil Zeuhl」というレーベルが存在し、ZEUHL系バンドの過去の作品を発掘したり、アンダーグラウンドに蠢く新人バンドをデビューさせたりと、不定期なペースで活動を展開しております。レーベルの公式facebookページが数年ほど前から存在しているのですが、今年に入ってちょくちょく情報を更新するようになりました。
https://ja-jp.facebook.com/pages/Soleil-Zeuhl/523588237670181

Soleil Zeuhlはまた、soundcloudのアカウントも持っています。何とつい最近になって、4時間半に及ぶインタビュー&サンプラー音源をアップしています。最初の1時間は、レーベルの総帥であるAlain Lebon氏へのインタビュー、最後の約50分間は「Soleil Zeuhl Pige Kosmik」なるトークパート(多分ZEUHLについて色々しゃべってるんでしょう)で、残りの2時間40分はレーベルの所属バンドの楽曲を50曲以上に渡って聴くことが出来ます。太っ腹ですね。CAILLOUBBIといったMAGMA人脈が絡むバンドから、XING SASETNANEOMSCHERZOOといった最近のバンド。ESKATONDÜNNOAといった黎明期に活動したバンド。Ctuluhu×ZeuhlバンドSHUB-NIGGURATHや、米国から登場したフォロワーCORIMA、孤高の存在として異彩を放つ日本のAMYGDALAなどが聴けます。サンプラーは以下のリンクからリスニングできます。
https://soundcloud.com/zwenska-a/sets/soleil-zeuhl-soleil-mutant

この数時間に及ぶZEUHLサンプラーを編集したのは、元UNIVERS ZEROロジェ・トリゴー氏が率いるチェンバー・ロック・プロジェクト PRESENTの現メンバーであり、ZEUHL系バンドのアルバムのエンジニアも多数手がける凄腕 Udi Koomran氏であるというのもまた見逃せないポイントでありましょう。氏がこれまでに手がけた作品については、こちらを参照のこと。

Udi氏はYouTubeにもアカウントを持っており、そちらでは色々と貴重な動画をアップロードされております。氏が所属するPRESENT関係の映像は勿論、吉田達也氏のドラムソロ動画や、FAUST、デヴィッド・アレン、そして知る人ぞ知るスイスのDebile Mentholのライヴ動画なんてのも。
https://www.youtube.com/user/UdiKoomran/videos

以下はサンプラーで聴けるバンドの簡単な紹介。アナタもZEUHL音楽の世界へ足を踏み外し…いや、踏み入れてみてはいかがでしょうか。

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CAILLOU
OFFERING(MAGMAが活動休止していた80年半ばにフロントマンのクリスチャン・ヴァンデによって結成されたコーラス主体のプロジェクト)の近年の編成にドラマーとして参加もしているPhilippe Gleizes擁する4人組ジャズ・ロック・バンド「カイロウ」。アルバムデビューは昨年(2013年)。ヘヴィなボトムと共にうねり疾走する白熱のバンドアンサンブルがスリリングな新鋭です。
http://blasrudy8.wix.com/caillou




CORIMA
珍しいアメリカのZEUHL勢「コリマ」。MAGMAの流れを汲んでいるのはもちろん、ジャケット・アートワークや曲名(読めない)、そしてサウンドのユーモラスな味付けからは、日本の高円寺百景からの影響も強く感じさせる。つまり「フォロワーのフォロワー」とも言えるバンドです。ここからさらにこのバンドの流れを汲んだバンドが出て…という展開もありえない話ではないのがZEUHLというジャンルなのです。
https://www.facebook.com/CORIMAMUSIC




Shub-Niggurath
'83年にベーシストのAllen Ballaudにより結成され、クトゥルー神話に登場する神性の名を冠したアヴァンギャルド・プログレ・バンド「シュブ=ニグラス」。'95年にAllenが癌により死去したため、バンドは活動を停止するものの、90年代初頭に録音されたマテリアルを元に制作された『Testament』を'03年に、初期のデモテープ音源に、Udi Koomranによるリマスタリングを施した『Introduction』をそれぞれ発表しております。soundcloudのサンプラーには'87年の貴重なライヴ音源も収められており、"Yog Sototh"の凶暴な演奏を聴くこともできます。また、同バンドのギタリストであるFranck W. Fromyは、近年UNIT WEIL(ユニット・ヴェイル)というShub-Niggurathの作風を継いだ新バンドで禍々しい触手を伸ばし続けています。
http://www.progarchives.com/artist.asp?id=810
https://www.facebook.com/unit.wail




BBI
MAGMAのベーシストであり、MAGMAから派生したジャズ・ロック・バンドONE SHOTでも活躍するPhilippe Bussonnet。クリスチャン・ヴァンデ率いるOFFERINGに80年代末期に参加していたドラマーのJean-Claude Buire。90年代にアルバムを2枚残したフレンチ・プログレ・バンドXAALの創設メンバー(ただし、2枚のアルバムにはクレジットされていない)でもあったというギタリストLaurent Imperato。以上3名のメンバーの頭文字をとったインストゥルメンタル・トリオ。'08年にアルバムを1枚発表しておりますが、録音自体は'96年に行われたものです。
http://www.soleilzeuhl.com/en/catalogue/productions-nouvelles/bbi/



SCHERZOO (François Thollot)
'00年代初頭に2枚のソロアルバムを発表(二作目ではONE SHOTのリズム隊であるPhilippe Bussonnet(b)とDaniel Jeand'heur(ds)を迎えて制作)しているマルチ奏者 François Thollot (フランシス・トロ)が'00年代末に結成したバンド「スケルズー」。MAGMA、UNIVERS ZEROからの強い影響下にあるジャズ・ロック/チェンバー・ロックを、変拍子をふんだんに盛り込んで聴かせる、歯応えのあるバンドです。
http://www.scherzoo.net/




SETNA
'04年に結成、MAGMAの「静」的な面に触発されたバンドで、オルガン/エレピとヴォーカルを中心とする穏やかなイメージで貫かれたジャズ・ロック・サウンドを聴かせてくれるのがこの「セトナ」。'07年のデビュー作ではMAGMA/ONE SHOTのギタリストであるJames Mc Gaw、'13年の二作目では全盛期MAGMAを支えたキーボーディストBenoit Widemannがそれぞれゲスト参加しております。
http://sesame7.free.fr/uk/setna/uksetna.htm




DÜN
'70年代末から'80年代初頭のわずかな期間に活動したバンド「デュン」Rock In Opposition(R.I.O)の流れも汲んだ隠れた名バンドなのですが、あまりにも隠れすぎた存在。バンド名や曲名のコンセプトは、かのフランク・ハーバートのSF小説『デューン』からきているようです。アルバムは'81年に発表された『Eros』1枚だけですが、緊密な楽曲と演奏を繰り広げるZEUHL/チェンバー・ロックの傑作であり、今なおカルト的な人気を誇ります。
http://alain.lebon4.free.fr/soleil/dun-gb.html




ESKATON
'70年代半ばに結成され、'80年代に3枚のアルバムを残して解散した「エスカトン」。ゴリゴリとうねり反復されるヘヴィなアンサンブル、オペラティックな女性コーラス、MAGMAの「静」と「動」の双方を巧みに再現するパフォーマンスを展開したバンドです。オリジナリティはあんまりないですが、MAGMAフォロワー(むしろクローンと言った方がいいかもしれません)としてはトップクラス。疾走感は本家以上にあるので、その点では結構なカタルシスが味わえます。ある種、ZEUHLの体現者とも言えるバンドだなあと思いますね。
http://www.pleinlatete-plt.fr/groupes/eskaton-2-0/




NEOM
'09年にデビューした、ヴォーカル、ドラムス、ギター、そして作曲も手がけるマルチ奏者のYannick Duchene Sauvage、ローズ・ピアノを担当するCarole Duchene Sauvage、ベースのWilliam Pawelzikによるジャズ・ロック・トリオ「ネオム」。大作志向の楽曲を、フュージョン・タッチなところもあるサウンドで聴かせるバンドです。
https://www.facebook.com/pages/Neom-Zeuhl/320589168743




STRAVE (Serge Bringolf)
ジャコ・パストリアスのツアー・バンドや、初期ART ZOYDのメンバーであるAlain Eckert率いるカルテット、ヒュー・ホッパーとリチャード・シンクレアの連名アルバムへの参加歴もあるドラマー セルジュ・ブランゴルフが、ZEUHLからの影響を反映させたジャズ・ロック・バンドが、この「ストラーヴ」。ブラス・セクションやヴァイオリン、フルートも交えて、長尺志向の楽曲を息をつかせぬテンションで繰り広げる様は圧巻の一言です。
http://www.soleilzeuhl.com/fr/catalogue/reeditions/strave-3/strave/




THE ARCHESTRA
ベラルーシにRATIONAL DIETというバンドがおりまして、MAGMAというよりはむしろUNIVERS ZEROやHENRY COWの影響下にある超攻撃的なチェンバー・ロックを展開していた好バンドだったのですが、色々あって2012年に解散してしまいます。その後、バンドのヴァイオリン奏者兼フロントマンであったCyrill Christyaが、同バンドのドラマー Nikolay Semitko、管楽器奏者のVitaly Appowと、奥方であるNadia Christyaと結成したのがこの「ジ・アーケストラ」。うっかりしていると喉元をカッ切られそうな前バンドの鋭い音楽性はそのままに、奥方の甲高いヴォイス・パフォーマンスも交えてより妖しげで暗いムードに磨きをかけたサウンドを聴かせてくれます。
https://www.facebook.com/pages/The-archestra/104600349673111




AMYGDALA
日本のZEUHL系バンド「アミグダラ」。キーボーディストの中島芳雪氏と、ブラック・メタル・バンド TYRANTのギタリストである山路善広氏によるデュオ・ユニットで、UNIVERS ZERO影響下のヘヴィ・チェンバーという趣の多重録音インストを展開しておりました。アルバムはこれまでに2枚発表しており、'08年に発表された2ndアルバムではONE SHOTのドラマー Daniel Jeand'heurを迎えている他、KENSOのキーボーディスト 小口健一氏がゲストで参加しています。
http://www.progarchives.com/artist.asp?id=3365



Alain Eckert Quartet
アラン・エッケールはART ZOYDの初期メンバー。ART ZOYDが'80年に『Symphonie Pour Le Jour Ou Bruleront Les Cites(都市が燃える日の為の交響曲)』('76年発表の1stアルバムの再録音盤)をリリースした後にバンドを脱退し、チェンバー・ロック・テイストのジャズ・ロック・カルテットを結成します。'81年に発表された唯一作には、Serge Bringolfがドラムスで、ART ZOYDのPatricia Dallioがピアノでそれぞれ参加しております。
http://www.soleilzeuhl.com/en/catalogue/productions-nouvelles/alain-eckert-quartet/




XING SA
SETNAのドラマー、ベーシスト、キーボーディストの3人により'00年代後半に編成されたシリアスかつスピリチュアルなジャズ・ロック・バンド「ズィング・サ」。SETNAのレコーディングの合間を縫って制作されたアルバムを'10年に発表しています。SETNAの母体となったジャズ・カルテットのフロントマンであるGilles Wolffや、SETNAの二作目に参加し、自身もNEOMのメンバーでもあるヴォーカル Yannick Duchene Sauvageもゲストとしてクレジットされています。
http://www.soleilzeuhl.com/en/catalogue/productions-nouvelles/xing-sa/




NOA
70年代後半に結成された、フルート/サックス奏者、ヴィブラフォン奏者を擁するジャズ・ロック・バンド「ノア」。アルバムは'80年に発表された1枚のみです。バンドの紅一点 Claudie Nicolasによるよく通るヴォーカル・パフォーマンス(SLAPP HAPPY、ART BEARSのダグマー・クラウゼからの影響もあったのかなあとふと思ったり)と、フリージャズ混じりの演奏を聴かせるアンダーグラウンドな内容。若干ペーソス混じり。
http://www.progarchives.com/album.asp?id=34598


2014年4月19日土曜日

Progressive Side of THE ALFEE

70年代半ばにALFIEでデビュー。フォークから出発し、時代の流れと共にニュー・ロック、ハード・ロック、プログレッシヴ・ロック、デジロック、テクノ、AOR、パンク、ビート・ポップと、多様な音楽性を血肉として取り入れ、今なお変化し続けているTHE ALFEE。坂崎幸之助氏のアコースティック/フォークのエッセンスと高見沢俊彦氏のハードロック/プログレ的なエッセンスが混ざり合った音楽性はプログレ的な視点から見ても興味深いものがあります。80年代中盤からのアルバムには叙情的で大作志向な曲が1~2曲は入っているのですが、そういったプログレ度の高いアルフィーの楽曲をまとめてみました。

●「GATE OF HEAVEN」(from Album『The Renaissance』【1984】)

'84年作『The Renaissance』はアルフィーのHR/HM化、プログレ化の大きなターニングポイントとなったアルバム。代表曲「星空のディスタンス」が収録されているのも本作であり、曲調も豊かでツボがしっかり押さえられた充実度の高い1枚です。8分半に及ぶ「GATE OF HEAVEN」も実に気合の入った構成で組み立てられたプログレハードチューン。


●「AGES」(from Album『AGES』【1986】)

タイトル曲でもあるこの曲のアカペラの出だしはモロにYES「Leave IT」の冒頭部のソレに影響を受けたのだと思う(ちなみに、YES『90125』がリリースされたのは'83年)。曲調はカラっとしたアメリカン・プログレ・ハード系。


●「DNA Odyssey」(from Album『DNA Communication』【1989】)

やんわりと優しげなコーラスワークや落ち着いたトーンのバンドサウンドに彩られた'89年作『DNA Communication』の楽曲はソフトなフォーク&AOR路線のものが多いのですが、大作志向が強まっており、アルバムは8分にも及ぶ「Heart Of Justice」で幕開けします。この9分にも及ぶ「DNA Odyssey」はアルバムのハイライトで、内省的プログレオペラとでもいうような1曲。


●「Mind Revolution」(from Album『ARCADIA』【1990】)

ハードな疾走感に溢れた前半、壮大かつシンフォニックな後半と、1枚で2度おいしいアルバム『ARCADIA』。個々の楽曲もさることながら、楽曲の統一感でもプログレッシヴな流れを生んでいる見事な作品であります。「Mind Revolution」は徐々に盛り上がるダイナミズムも効いた絶品のシンフォニックバラードです。


●「幻夜祭」(from Album『夢幻の果てに』【1995】)

スリリングな変拍子の効いたゴリゴリのプログレッシヴ・メタル・チューン。『夢幻の果てに』は、同年リリースのライヴアルバム『LIVE IN PROGRESS』と併せて、プログレ期アルフィーを象徴する作品であります。


●「Nouvelle Vague」(from Album『Nouvelle Vague』【1998】)

「幻夜祭」の姉妹編とも言える1曲で、ストリングスを大胆に導入し、QUEEN風のコーラスワークも交えたド派手なシンフォニック・メタル・チューン。


●「Dark Side Meditation」(from Album『orb』【1999】)
orb【SHM-CD】(紙ジャケット仕様)orb【SHM-CD】(紙ジャケット仕様)
(2009/03/18)
THE ALFEE

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世紀末に発表された『orb』は捨て曲なしの名盤だと個人的に思います。テクノ/デジロック要素をうまく取り込んだハリのあるサウンドが非常にパワフルで聴き応えバツグン。2曲目に位置する「Dark Side Meditation」はテクニカルな導入部(YES+DREAM THEATERといった感じ)も印象的な1曲。


●「UNCROWNED KINGDOM」(from album『GLINT BEAT』【2001】)

『GLINT BEAT』はビートパンク/ロックンロール路線へのターニングポイントとなったアルバム。「運命の轍、宿命の扉」「Boy」「Fairy Dance」等、名曲多し。「UNCROWNED KINGDOM」は前作の「Dark Side Meditation」の流れを汲んだテクニカルプログレハード系。


●「組曲~progressive edit~」(from 『フィギュア17 つばさ&ヒカル オリジナル・サウンドトラック』【2002】)
こちらは番外。2001年から2002年にかけて放送されたアニメ「フィギュア17 つばさ&ヒカル」は、主題歌をTHE ALFEE、劇伴を高見沢俊彦氏が担当された作品であります。サウンドトラックには主題歌"Boy"のフレーズを織り交ぜた"組曲~progressive edit~"という楽曲が収録されているのですが、高見沢氏のプログレハード嗜好が反映されており、もっさり感も含めて何というか「らしい」仕上がりです。



●「LAST OF EDEN~Neo Universe PART II」(from Album『新世界 -Neo Universe-』【2010】)

2010年代最初のアルバムのオープニングを飾ったのは、トータルで20分近い"Neo Universe"三部作の組曲なのですが、その第二部にあたる楽曲。ここぞとばかりにテクニカルな変拍子リフを叩き込む疾走プログレ・ハードチューン。「メロディック・ハード究極のコーラス・ワーク」というアルバムのコピーにも偽りはありません。

2014年4月13日日曜日

「月の影は、過去に似ている。過去の幻に。」 因業と硝煙渦巻く幕末ノワール ― 月村了衛『コルトM1851残月』(2013)

コルトM1851残月コルトM1851残月
(2013/11/21)
月村 了衛

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 至近未来警察小説『機龍警察』シリーズで日本SF大賞と吉川英治文学新人賞のダブル受賞に輝いたことも記憶に新しい、今まさに勢いに乗った作家の一人である月村了衛氏の時代小説作品。2012年に刊行された時代小説もののデビュー作『一刀流無想剣 斬』も、月村氏の手腕の確かさ、ストーリーの面白さの双方を味わえるものでしたが、本作はそれをさらに上回る面白さでありました。銃の名前 + 主人公の異名を冠した無骨極まるタイトル、そして二丁拳銃で見栄を切った表紙もたまらなくグッときます。本編のストーリーもそんな無骨で掘りの深いイメージをバッチリと描き出しています。舞台は江戸末期、裏稼業に生きる一人のアウトロー「残月の郎次」が、自らが属する組織の狡猾なる連中を相手に、手にしたコルトで一人、また一人と撃ち斃し、屍の山を築き上げる……というもの。時代小説の型に、西部劇的なウィットとガンアクションを流し込み、さらにはノワール、ピカレスクの硬質な苦味も走らせた贅沢な仕上がり。殺るか/殺られるかという因業と硝煙のプロットは実にベタながら、陳腐なもので終わらせていないのは、やはり月村氏の手腕のなせるわざでしょう。一家心中の生き残りという壮絶なる過去を背負う郎次。その郎次にコルトを託した張本人、阿片戦争から生き延びながら、今はその身を労咳に蝕まれた唐人〈灰〉。能面のような風貌に隠された感情が全く読めない、組織を束ねるドンにして郎次の育ての親である「儀平」。ほとんど偶然のような出会いでありながら、その縁がいつしか腐れ縁となり、郎次の孤独な戦いで擦り切れた心に寄り添う「お蓮」。といった、各キャラクターの語りどころも少なくありません。それぞれの思惑と背景が、江戸の闇をえぐり出すストイックな文体によって描き出され複雑に絡み合うのです。また、やりとりの中に、脳裏に刻印される一節がそこかしこにあるのも魅力であります。数を呟きながら装填し「どうしても二百と十よりは早くならねえ―」と独りごちながら撃つ冒頭を皮切りに、「―月の影は、過去に似ている。過去の幻に。だから、俺は月の影が嫌いだ……」「―憎しみを込めて撃て。憎しみのない弾など当たりはしない。当たらなければ己が殺られる。殺られたくなければ憎め。―」「残月ってのは、消えても消えても、次の夜になりゃあ、またちゃあんと出てくるものさ」……そりゃあシビれようってもんですよ。感激と共に堪能いたしました。

2014年4月12日土曜日

山下尚輝『いつもともだちさ(NHKプチプチアニメ「ロボットパルタ」) EP』 (1994/2011)


いつもともだちさ(NHKプチプチアニメ ロボットパルタ) - EP 山下尚輝
https://itunes.apple.com/jp/album/itsumotomodachisa-nhkpuchipuchianime/id413213914



NHKで20年近くに渡って放送されているストップモーションアニメ「ロボット・パルタ」。本編をよく見ていた頃は全く意識してませんでしたが、劇中BGMはモロにニューウェイヴだし、主題歌もとてもいい感じのテクノ歌謡なんですよねえ。iTunes Storeには、主題歌"いつもともだちさ"と、そのインストゥルメンタル・ヴァージョン、そして小粋なニューウェイヴテクノチューン"パルタバンド"の計3曲を収録したEPが2011年の1月よりダウンロード販売されております。ちなみに、"いつもともだちさ"を歌われているのは、初代ランスやアンジェリークのイメージソング、まもって!守護月天のOVA版のEDテーマなどを手がけられている伊澤美穂さん。また、劇伴を手がけられた山下尚輝氏は、TVやCM、舞台作品などの劇伴を作編曲を多数手がけられているコンポーザー/ギタリストであり、ムーンライダーズのトリビュート・アルバムにも参加歴のある方。ヤマシタナオキ名義で2012年にソロアルバムを発表されている他、screen's(スクリーンズ)というロック/ポップス・バンドのヴォーカリスト兼ギタリストとしても活動されております。





ロボット・パルタの生みの親である保田克史氏が同作より前に制作され、かの「イカ天」の後番組である「えびぞり巨匠天国」(1991)で発表された"PULSAR"というストップモーションアニメ作品がこちら。パルタに似た造型のキャラクターも登場し、クールでユーモラスな映像もさることながら、BGMがまた淡々としたカッコ良さがあるんですよね。




NHKアニメワールド:プチプチ・アニメ【ロボット・パルタ】
BOWDA'S(保田克史)
ヤマシタナオキ - オフィシャルサイト
伊澤美穂 - Anison Generation~アニソンデータベース

2014年4月10日木曜日

ドイツ人アレンジャーによる、「二台のピアノのためのマイク・オールドフィールド」

ひょんなことから、YouTubeでマイク・オールドフィールドの楽曲の「ピアノ二台によるアレンジ」を見つけました。しかもこれがなかなかの良アレンジ。どうやら、ドイツで合唱団の指揮者やクラシック方面の編曲を手がけているCarsten Gerlitzという人によるものだそうな。彼のYouTubeアカウントでは、いくつかの楽曲のアレンジを聴くことができます。

https://www.youtube.com/user/pipomaus

まずはスタンダードに"Tubular Bells Part.1"


そして"Ommadawn"


さらに、こちらも大曲"Taurus II"。個人的にはこれが一番のお気に入りです。


そしてまさかの"Platinum"。今年の1月末にアップロードされた、最新アレンジです。



【おまけ】
先に挙げた人とはまた別。こちらは2012年4月に、アメリカのGus FogleというピアニストとJason Millerというベーシストが、マイク・オールドフィールドの大曲"Amarok"をフルヴァージョン(約1時間)で生演奏したパフォーマンスを収めたもの。マイク自身のライヴではこの曲がフルで演奏されたことはなかったですし、いやはや大したものです。Ryan Yardというイギリスのコンポーザーが数ヶ月かけて採譜したバンドスコアを元にして演奏されたそうで、Ryan氏のサイトにそのスコアの販売ページがあります。全250ページ。氏のサイトには他にも"Hargest Ridge""Ommadawn"のフルバンドスコアが販売されております。



2014年4月8日火曜日

「クラッシュ・バンディクー」「ジャック×ダクスター」「ザ・シムズ2」 DEVOのマーク・マザーズボウによるゲーム音楽仕事あれこれ

言わずと知れたテクノ・ポップ/ニューウェイヴ・パンク・バンド DEVO。そのフロントマンであるMark Mothersbaugh(マーク・マザーズボウ)氏は、80年代からバンドの活動と並行してTVドラマや映画などのサウンドトラックの仕事を手がけており、'89年には音楽制作会社「Mutato Muzika」を設立するなど、現在に至るまで膨大な作品に楽曲を提供し続けております。作品の殆どは日本ではあまり知られておりませんが、今回はマザーズボウ氏や、彼が指揮するMutato Muzikaが手がけた作品の中から、ゲーム・ミュージック関係のものを追ってご紹介していこうという趣旨のエントリでございます。

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■'96年に発表された、DEVOプロデュースによるCD-ROMのアドベンチャーゲーム「Adventures of The Smart Patrol」"Whip It" "Mechanical Man" "Freedom of Choice"などのDEVOの過去のアルバムからの楽曲と、コンピレーションアルバムに収録されていた"U Got Me Bugged"や"Jocko Homo"などのデモやオルタナティヴ・ヴァージョンに加えて、The Smart PatrolというDEVOの変名バンドの楽曲を2曲聴くことが出来るという珍作。サントラもちゃんと出ていたようです。この内容的だと企画ベスト盤と言った方がいいのかもしれませんが。




■'96年に第一作が発表され、日本でも一世を風靡したゲーム「クラッシュ・バンディクー」シリーズ。その1~3作目と、「レーシング」「カーニバル」のBGMをMutato Muzikaが手がけております【※1】。不思議なことにサウンドトラックはどのシリーズからも1枚も出ておりませんが、YouTubeで各シリーズの楽曲を聴くことができます【※2】

「YouTube Playlist - クラッシュ・バンディクー BGM」
https://www.youtube.com/playlist?list=PLF1994057AFE556B4


■'99年にActivisionが制作・販売したカーバトルアクションゲーム「Interstate'82」。同作ではファンキーなオリジナルBGMの他、"One Dumb Thing" "Modern Life" "Faster And Faster"という、当時はDEVOのどのアルバム/コンピレーションにも収録されていなかった3曲の未発表曲を聴くことが出来たようです【※3】。"One Dumb Thing"は'00年リリースのベスト盤『Pioneers Who Got Scalped』に、"Modern Life" "Faster And Faster"は同じく'00年リリースの2枚組の未発表音源集『Recombo DNA』に、それぞれ収録されることになります。




■クラッシュ・バンディクーシリーズの開発元であるノーティドッグが手がけ、'01年に第一作目、'03年に第二作目、'04年に第三作目がそれぞれ発表された「ジャック×ダクスター」シリーズ。日本では二作目までしかローカライズされておりませんが、三部作のBGMは全てMutato Muzikaが手がけております。

「Jak & Daxter Title Theme Music」
https://www.youtube.com/watch?v=KbXEk011YIU

■ライフタイムシミュレーションゲームの人気シリーズである「ザ・シムズ」。'04年に発表されたシリーズ2作目のBGMはマザーズボウ氏が全面的に担当されております。また、同作のBGMのリミックスアルバムもあり、メインテーマをジャンキーXLがリミックスしているのも面白いところ。iTunesでリミックスアルバム含め、3枚のサウンドトラックが販売されております。

『The Sims 2』
https://itunes.apple.com/jp/album/sims-2-ea-games-soundtrack/id79384729
『The Sims 2: University』
https://itunes.apple.com/jp/album/sims-2-university-ea-games/id79391849
『The Sims 2: Nightlife』(リミックス集)
https://itunes.apple.com/jp/album/sims-2-nightlife-ea-games/id79025756




■XBOX360やPS3、Wiiなどの各種ハードで'07年に発表されたゲーム版シンプソンズ「The Simpsons Game」の楽曲。1曲だけMutato Muzicaが関与しております。

「The Simpsons Game Soundtrack -
Around The World in 80 Bites」

https://www.youtube.com/watch?v=RRT0hwLlKWQ


■'08年にエレクトロニック・アーツから出たWii用パズルゲーム。このメインテーマは多分マザーズボウ氏によるものじゃなかろうかと。こちらもサウンドトラックがiTunesで販売されております。
https://itunes.apple.com/jp/album/boom-blox-original-game-soundtrack/id293679224



【※1】
「サウンドトラック制作者 Josh Mancell氏のインタビュー」
(「クラッシュ・バンディクー ファンサイト」内のページ。サイト消滅によりInternet Archiveのログ)
https://web.archive.org/web/20130503035352/http://www.geocities.jp/crashbandicoot_fannet/cramint.html

【※2】
余談ですが、日本国内のCMで流れたイメージソング"クラッシュ万事休す"の作曲者は、ムーンライダーズの岡田徹氏です。さらに言うと、同曲は2010年にCTO LAB(岡田徹、Polymoog、イマイケンタロウの三者によるテクノポップユニット)のアルバムでリメイクされています
http://www.geocities.jp/crashbandicoot_fannet/museum/musickuratusyu.html

【※3】
「Are We Not Gamers? Devo Contributes Tracks to Interstate '82」
http://www.sjgames.com/pyramid/sample.html?id=1159


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こちらはマザーズボウ氏へのインタビュー映像と、Mutato Muzikaの紹介映像。


DEVO私設ファンサイト
Mark Mothersbaugh - Wikipedia
Mark Mothersbaugh - VGMdb
DEVO - Wikipedia
Mutato Muzika

DEVOのフロントマンによる "全てはサイコー"なスコア - Mark Mothersbaugh『The Lego® Movie Soundtrack』(2014)

2014年4月6日日曜日

DEVOのフロントマンによる 「全てはサイコー」なスコア - Mark Mothersbaugh『The Lego® Movie Soundtrack』(2014)

Lego MovieLego Movie
(2014/03/18)
Mark Mothersbaugh

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Phil LordChris Miller監督による、2014年公開のストップモーション風CGアニメーション映画「LEGOムービー」を観に行きました。いやはや良い映画でした。キッズ向けかと思いきや、さにあらず。ネタバレになるので詳しくは伏せますが、LEGOブロックという玩具の根源的な魅力も滲ませつつ、なるほどそういう展開とオチに持ってくのか!と。そういうところも含めて良いエンターテインメントとして仕上がっていて、なるほど劇中歌よろしく「Everything Is Awesome(全てはサイコー)」な作品でした。既に続編の制作もアナウンスされている本作の劇伴を手がけたのは、テクノ・ポップ/ニューウェイヴ・パンク・バンド DEVOのフロントマンでもあるMark Mothersbaugh(マーク・マザーズボウ)。氏は80年代からDEVOの活動と並行してTVドラマや映画などのサウンドトラックの仕事を手がけており、'89年には音楽制作会社「Mutato Muzika」を設立するなど、現在に至るまで膨大な作品に楽曲を提供し続けております。ちなみに、日本でも一世を風靡したゲーム「クラッシュ・バンディクー」シリーズのBGMも彼が手がけております(シリーズの1~3作目、「レーシング」「カーニバル」を担当)。同作のカントリー・ミュージック的なポップな躍動感は、このLEGOムービーのスコアでも少し伺えたりします。



基本的にはオーケストレーションとコーラスを基調にした壮大でセンチメンタルな演出に長けたスコアでありますが、エレクトロテイストも随所でギラギラさせており、そのユニークな味わいに往年の諧謔ぶりを少なからず見出せます。"Cloud Cuckooland And Ben The Spaceman"という、ちょっとDEVOの影もチラつくニューウェイヴ・パンク調のスコアにニヤリとさせられたりも。メインフレーズが他の曲でも幾度となく登場することもあり、本作を象徴するといっても過言ではない"Emmett's Morning"や、壮大なオーケストレーションとエレクトロミュージックが交錯する"Saloons And Wagons" "I Am A Master Builder"も秀逸ですし、"Escape" "Wildstyle Leads"のような昨今の潮流を繁栄したダブステップ調のスコアもあります。DEVOのマザーズボウ氏がダブステップをやっていると考えると何とも隔世の感がありますが、字面的に妙な面白さもあるなあと。



その他、カナダのインディーロックデュオであるTegan&Saraが歌い、アメリカのコメディトリオ The Lonely Islandをフィーチャーした主題歌"Everything Is Awesome!!!"は、インストヴァージョンの他、「Jo Li」(カナダのソングライターJoshua Bartholomewと、元The Smashing Pumpkinsのキーボーディスト Lisa Harritonのデュオ)が歌うヴァージョン、同曲の作曲者であるShawn Patterson自らがヴォーカルをとったアンプラグド・ヴァージョンといった、エンドクレジットで流れる各種テイクも全て収録されております。バットマン役のWill Arnettが歌うデジロックチューン"Untitled Self Portrait"も勿論収録。



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2014年4月1日火曜日

FROST*のジェム・ゴドフリーも関与のLOSERSのアルバム『...And So We Shall Never Part』が4月4日にリリース



元The Cooper Temple ClauseのTom Bellamy、イギリスのインディーロック系ラジオ局XFMのDJでもあるEddy Temple Morris、BLOC PARTYのGordon Moakesとのバンド活動も行っているPaul Mullenの3人が在籍し、過去には元OCEANSIZEのドラマーであるMark Heronも一時期参加していたUKロック・バンド LOSERSの2ndアルバム『...And So We Shall Never Part』(ミックスとプロデュースはFROST*のJem Godfrey)が、4月4日にCDとデジタルダウンロードの両方でリリースされることが決定し、現在プレオーダーを受付中です。アルバム自体は昨年の中ごろに既に完成していたのですが、流通は非常に限られており、クラウドファウンディングサイトであるPLEDGE MUSIC経由でのバンドへの出資者か、バンドのツアーの物販のみというものであっただけに、これは嬉しいニュースです。

プレオーダーはこちらから。
http://nineteen95.limitedrun.com/products/519980-pre-order-losers-and-so-we-shall-never-part



ちなみに、アルバムに収録されている"Turn Around"は、ジョージ・R・R・マーティンの大作ファンタジー小説『氷と炎の歌』を原案とするTVドラマシリーズ「ゲーム・オブ・スローンズ」のシーズン4のトレイラーにも使われております。




【4/5 追記】
こちらのサイトで、アルバムの全曲をストリーミングで視聴できます。
visions.de | News | Cooper-Temple-Clause-Nachfolger Losers streamen neues Album
http://www.visions.de/news/20534/Cooper-Temple-Clause-Nachfolger-Losers-streamen-neues-Album

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