2014年3月9日日曜日

坂本壱平『ファースト・サークル』(ハヤカワ文庫JA - 2013)

ファースト・サークル (ハヤカワ文庫JA)ファースト・サークル (ハヤカワ文庫JA)
(2013/12/19)
坂本 壱平

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第一回ハヤカワSFコンテストの最終候補となった、青野六郷改め坂本壱平氏の作品。ある日突然「頭」と「胴体」に分かれてしまった"私"。精神科医の佐々木満ちる、奇妙な言動を繰り返す主治医の松下、そして手のひらに謎の穴が空いている小川少年。二つの世界の物語とシュール光景が、謎の奇妙な手拍子に導かれて交互に展開される幻想小説であります。「胴体」はスコットとアレックスという二人の男と、饒舌にしゃべる黒猫のバルビエリと共に「ある場所」を目指し、一方の満ちるは松下の奇妙な行動に戸惑いを覚えながら、小川少年の手のひらの穴を通して見える不思議な光景を目の当たりにします。謎の手拍子とは?「ファースト・サークル」の創世とは?「頭」の行方は?という謎を孕みつつ、二つの物語が交わってゆくのですが、ストーリー自体が曖昧で起伏が少なく、また淡々と展開されることもあって入り込むのにとにかく苦労しました。「奇数章と偶数章で別々のストーリーが展開されている」ことを事前に掴んでおけば大分読みやすくなるのですが、それでもなおつかみどころのない部分がそこかしこにあります。SF書評家の牧眞司氏は「山野浩一の作品を髣髴とさせる。」と指摘されておりましたが、なるほど確かに往年のニューウェイヴSFのテイストを今風にアレンジした印象を感じます。好みは非常に分かれますが、個人的には、夢とも現実ともつかないこの不思議に乾いた味に惹かれるものがありました。今後の作品に期待したいです。ところで、本作のキーとも言える謎の変拍子は、登場するたびに「それは八分の十一拍子の変拍子。八分音符を六と五に分け、一拍目は裏の十六分音符から入り、二拍目は表、三拍目は裏、四拍目に十六分音符を二回打ち、五拍目は裏、六拍目も裏、これで前半の六つの八分音符が終わり、続けて裏の十六分音符、表の十六分音符とはじまる後半の五つは、三拍目に十六分音符を二回、四拍目、五拍目と裏の十六分音符を二回繰り返しまた頭に戻り、これを何度も繰り返している」と、非常に詳しく描写されているのですが、これはタイトルの「ファースト・サークル」の元ネタにも因んでいます。というのも、これはパット・メセニー・グループ"First Circle"の冒頭のフレーズの展開でもあるのです。同曲は八分の十一拍子の手拍子のイントロに導かれて、幻想的な味わいが静かに、そして力強く展開される名インストゥルメンタルです。



そういうわけで、PMGを聴きながら『ファースト・サークル』を読んでおりました。ちなみに個人的にオススメしたいのはこのパフォーマンス。夢心地なピカソギターの独奏から一気にバンドのグルーヴへと切り替わる瞬間のカタルシスもたまりません。