2014年2月28日金曜日

芦辺拓『奇譚を売る店』(光文社 - 2013)

奇譚を売る店奇譚を売る店
(2013/07/18)
芦辺 拓

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毎回「―また買ってしまった。」という主人公のつぶやきで始まる連作短編集。「本に憑かれた人」の姿を悲喜こもごもを絡めてリアリスティックに書いたのは梶山季之氏の名作『せどり男爵数奇譚』ですが、本書はその業の深いテーマを怪奇と幻想を絡めて料理し、提示した作品といえます。本書は全六編から成り、主人公は誘われるかのようにして古書に綴られた世界へとずるずると入り込み、現実と虚構を行き来しながら、背筋を寒からしめる奇妙な体験が綴られていきます。一冊の古びた病院のパンフレットから明らかになる数奇な縁と恐るべき事実を書いた「帝都脳病院入院案内」。謎の作者の足跡を追ううちに半ば取り憑かれていく「這い寄る影」。古き良き少年探偵モノへの愛も込められた「こちらX探偵局/怪人幽鬼博士の巻」。妖美なミステリ「青髯城殺人事件 映画化関係綴」。まさに梯子を外されたようなオチが待っている「時の劇場・前後編」。そして最後の「奇譚を売る店」では先の五編の出来事の恐るべき真実とともに総括する一方で、読み手にまでおぞましい怪奇をブン投げてくるという趣向。「深淵を覗くとき、深淵もまたこちらを覗いているのだ」と、かのニーチェは言いましたが、オレンジ色の装丁に惹かれて手にとった瞬間から、自分も本という魔物に魅入られていたのかもしれません。