2013年3月14日木曜日

悠木碧『メリバ』(2013)

2nd プチ・アルパム「メリバ」(通常盤)2nd プチ・アルパム「メリバ」(通常盤)
(2013/02/13)
悠木碧

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 声優 悠木碧による2ndミニアルバム。昨年リリースされた1stミニアルバム『プティパ』のメルヘンチックな世界観とストーリーを継いだ姉妹編作品です。DECO*27氏やbermei.inazawa氏ら気鋭のコンポーザーを作編曲に迎え、悠木さんの様々な声色を使い分けたヴォーカルとともにヴァリエーションに富んだ楽曲に彩られた『プティパ』は、コンセプト・アルバムとしても、"ヴォーカリスト 悠木碧"のショウケース的アルバムとしても申し分のないものでした。そして本作は前作を踏まえ、彼女の内面にある世界観をより明確化し、よりディープに提示された作品になっています。前作の「ハコニワミラージュ」「ハコニワソレイユ」が、新居昭乃さんを思わせる幻想的な楽曲でありましたが、本作ではなんと新居昭乃さんと保刈久明氏の黄金コンビが「ポポン...ポン!」「夜の扉とメリーゴーランド」「サンクチュアリ・アリス 」の3曲を提供しております。新居さんのファンである悠木さんの意向を汲んだプロデューサーが今回のキャスティングをしたとのことですが、いやあ実に素晴らしいコラボレーションですね。

 アルバムタイトルである『メリバ』とは "メリーバッドエンド"の略称であり、"当人にとってはハッピーだが、周囲にはバッドである結末(その逆もまた然り)"を持った物語を指す言葉(造語)だそうです。それは今回の収録曲のストーリーにも強く反映されており、後を引く余韻を残すものになっています。楽曲のコンセプトについては作詞者/作曲者の方々にかなり細かいところまで相談が行われたそうで、彼女の中に確固たるヴィジョンが存在していることが伺えます。オープニングを飾る「ポポン...ポン!」は、前作の「回転木馬としっぽのうた」に続き、猫をテーマにした1曲。飼い猫にうっかり食べられてしまった飼い主の、身近にいるのだけれども寂しいという心境が、煌びやかでファンタジックなサウンドで綴られています。PVにも登場している愛猫の"アシュベル"くんから彼女はかなりインスピレーションを得ているみたいですね。前作の「Night Parade.」で描かれた魔女のパレードが再び登場する「夜の扉とメリーゴーランド」は、魔女からの誘いを冷ややかに眺める少女の視点で描かれた1曲。パレードの情景をイメージさせるマーチングドラムに導かれてドリーミーな展開が華やかに続いてゆく、60'sテイストも薫るポップスです。riyaさんがコーラスを歌っている他、新居さんと馴染みの深い渡辺等さん(b)、藤井珠緒さん(per)が参加されています(お二人は「サンクチュアリ・アリス」にも参加)。「I Can Fly!」は、前作の「時計観覧車」に登場した一羽の鳥が、再び飛び立つべくがむしゃらにもがき続ける様を描く、アップテンポのストレートなロック・チューン。エレクトロニカ調の「サンクチュアリ・アリス」は、前作「Baby Dolly Alice」に連なる1曲。人形と遊んでいるうちに、自分が人間なのか人形なのかわからなくなってしまった少女アリスの危うさを表現しております。ラストの「Mon Ciel Bleu~わたしのあおいそら~」は、先の4曲で描かれる世界に浸る一人の夢想家を主人公にしたワルツ調の楽曲。メタな趣向が凝らされていると共に、幸せと不幸せが表裏一体となった本作を総括しております。「揺るぎない自分の世界と、実際の世界とのバランスをどうやってとるべきなのかをちゃんと感覚として知っている。」と、新居さんが悠木さんを評していましたが、この曲は彼女のそのバランス感覚を象徴する1曲ではないでしょうか。

 ミニアルバムですが、語りどころの多い1枚だと思います。彼女の提示する一筋縄ではいかないアイデアをひとつの形にして仕上げたライター/コンポーザーの方々の手腕にも唸らされました。一方で、悠木さん自身が表現したいという世界をしっかりと持っているだけに、アルバムを通してがっつりとタッグを組める心強いパートナー(例えば、谷山浩子さんにおける石井AQ氏や、新居さんにおける保刈氏、そしてかつての坂本真綾さんにおける菅野よう子さんのような)に今後巡り合えることが出来れば、彼女のイマジネーションはさらに魅力的に花開いてゆきそうだなあとも感じました。とにもかくにも、次は是非ともフルアルバムのスケールで彼女の世界観を味わってみたいですね。さらなる成長に期待しています。



悠木碧:Wikipedia
ナタリー - 悠木碧「メリバ」インタビュー with 新居昭乃
ニコニコ動画 - 悠木碧2ndプチ・アルバム「メリバ」発売記念特番