2011年2月18日金曜日

ガールズ プログレッシヴ・ロック・バンド VELVET PΛW (ベルベット・パウ)の軌跡



 80年代初頭から90年代中ごろにかけて活動していたレディース・ロック・バンド:ベルベット・パウ。彼女達がアルバムデビューした頃は活動時期的に国内でバンドブーム、ガールズバンドブームの時期にもあたり、彼女達もそんな追い風を受けてのデビューだったようですが、メンバー全員の確かなテクニックと、アメリカン・プログレ・ハードに近い質感を持った歌モノサウンド(各メンバーがTOTOやJOUNRNEY、VAN HALEN、ASIAといったAOR系バンドを一様に好んでいたのがやはり大きいと見えます)は凡百のガールズバンドとは一線を画しており、当時としてもかなり異質な存在だったのではないでしょうか。80年代の活動初期ごろに彼女達が対バンしていたバンドに、関西プログレハードの雄:スターレスや、泉陸奥彦氏が在籍していたアヴァンギャルド・ジャズ・ロックバンド:KENNEDY、そしてルーシェル、ロザリア、などがいたというのも頷けるというもの。



「VELVET PΛW」(1989)
 88年にレディースロックコンテストで入賞、その勢いを受けてレコード会社との契約が決まり、翌年にCBS/SONYより発表されたデビュー1作目『VELVET PΛW』。バンドのセルフプロデュースのもと、TOTOやJOURNEYを志向したプログレハードテイストと、やや泥臭めのハードロックテイストのバランスを取りつつ、一方ではJOURNEYやTM NETWORKを思わせる「Aim Of Lover」のようなわかりやすい楽曲も織り交ぜています。また、「Cynthia」「Everyday」といったミドルテンポの楽曲展開・構成には、デビュー作とは思えない貫禄と土台の揺ぎ無さを強く感じます。爽やかに乾いたギターがドライヴし、キーボードが鮮やかに味付けするラスト曲「LONG WAY OUT」は次作への布石も兼ねているような仕上がり。





「SIGN」(1990)
 2ndアルバム。バンドのカタログの中でも最もプログレハード度が高まった作品であると個人的に思います。やや暗めのトーンだった前作とは一転して、本作では明るめの方向性に。コーラスワークも前に出てき始めており、各楽曲のキャラの立ち具合もより明確に。そして元マライアの笹路正徳氏、土方隆行氏の両氏がアルバム・プロデュースを手がけられているところもポイント。ハードかつ骨太なサウンド作りにおいてはこれ以上ないほどに心強い人材はないです。以降、バンドと両氏との製作体制は最終作まで続きます。躍動的なオープニング「Changes」、シニカルな詞にグニグニとトリッキーな動きを見せるベースの明瞭さが気持ちの良い「Sorry Mother」「T.V.Game」の他、キーボードの活躍ぶりも増え、空間的なバラード「空を見ていた」や、ファンキーなAOR「Love Commission」「Giving It Up」といった一味違った楽曲もあり、ポップサイドの楽曲の充実振りにバンドの良好なコンディションが伺えます。また、プログレサイドにあたる楽曲が強烈。中でも1分半分近いイントロから、捻りと変拍子を加えた疾走感溢れる展開とバシっと決まるサビにシビれる「Say You've Got the Sign」はアルバムのハイライトと呼ぶにふさわしい。また、6分弱のちょっとした大曲「Soaler」はキーボードをフィーチャーしまくったシンフォニック・プログレ曲で、途中のキーボードソロは白眉。この曲で堂々たる〆となるのもお見事。キャッチーだけども一筋縄ではいかない彼女らのプログレ・ハード・サウンドがここで確立。





「Desire」(1991)
 90年代には聖飢魔IIやアースシェイカーといったメタル/ハードロックバンドとの対バンも行い、特に聖飢魔IIの面々との親交は深かったようで、共にメディア出演などもしていた模様。そういったことも影響したのか、はたまたレコード会社からの方向転換要請なのか、91年発表のこの3rdアルバムではハードロックへのアプローチがグっと強まっており、SHOW-YAばりのパワフルさを発揮。肉感的なタイトル曲「ディザイアー」を皮切りに、ソリッドかつタイトなサウンドが全開。特にシングルカットされた「太陽をつれて」は"勝負に出た"という勢いを感じさせるフレッシュ極まりない痛快なハードポップ曲で、北欧のバンドがやっていてもおかしくない仕上がり。反面、プログレっぽさは「Beat That Paranoid」「Sail On」で味付け的にとどまっているという程度になり、また「プラスチック・ガール」や「夏の終わり」など、楽曲の傾向がポップスに寄り始めてやや没個性気味というか丸くなってきたというのも感じます。「Peeping Tom」「私の中の彼女」の2曲の作詞に森雪之丞が参加しているのも、よりキャッチーな方向性にという"テコ入れ"的な意図があったのでしょうかね。




「目覚めるまで」(1992)
 前作を最後にギターの高橋洋子嬢が脱退し、後任に伊東憂紀嬢を迎えて制作、バンドにとって最終作となった4thアルバム。今作には笹路&土方のコンビに加え、坂井紀雄氏もプロデュースに参加(ちなみに笹路、土方、坂井の3人は元NAZCAのメンバー)。前作のハードロック/ポップス路線にさらなる磨きをかけたという仕上がりで、1stの頃と比べると大分方向転換してしまいましたが、元々土台がしっかりしているため依然として骨太なサウンドが健在なのは流石というほかないです。前作ではやや散漫なせいか少々ジレンマめいたものも感じてしまいましたが、本作ではしっかり筋が通っていて、ストレートな威勢の良さを感じさせるのが嬉しい。シングルカットされた「目覚めるまで」はもちろん、「その瞳のポラロイド」「こんな悲しいしあわせを」でのエッジの効いたリフとキャッチーなサビは、アルバムタイトルではないですが目が覚めるようであります。しばらくナリを潜め気味だったキーボードの迸る様な出音も実にパワフル。本作発表後、93年にキーボードの増田友希江嬢が脱退、95年3月に活動休止を発表し、バンドは14年間の活動に幕を閉じることになります。



The record of VELVET PΛW
ガールズバンド:Wikipedia

 バンドのフロントマンでありドラムスを担当していた桐生千弘氏は、バンド解散後はコンポーザー/アレンジャーとして、他アーティスト(ともさかりえ、奥菜恵、カルメン・マキetc)への楽曲提供やCM・アニメ劇伴作曲などの活動をされていたようです(笹路氏と共に仕事をされていることが割と多かった模様)。Wガンダム、名犬ラッシー、カードキャプターさくらなどの主題歌/キャラクターソングの一部で彼女の名前を見ることができます。特に、WガンダムのキャラクターソングはVELVET PAWの頃の作風を伺わせる部分もあり、興味深いです。
http://camelletgo.blogspot.com/2014/01/exvelvet-paw-works.html